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硝酸カルシウム

肥料としての硝酸石灰は2種類がある。一つは硝酸カルシウム4水塩(Ca(NO3)24H2O)で、もう一つは硝酸カルシウムに少量のアンモニウムを添加し、反応させて生成した硝酸カルシウム・アンモニウム複塩(5Ca(NO3)2·NH4NO3·10H2O)で、いわゆる粒状硝酸石灰というものである。ここで紹介する硝酸石灰は養液栽培肥料としてよく使われる硝酸カルシウム4水塩である。粒状硝酸石灰は「窒素系肥料」に紹介する。

硝酸カルシウムに含まれる窒素は硝酸態窒素で、作物が直接に吸収することができる。作物は吸収した硝酸態窒素を自らの体内で亜硝酸 → アミノ酸 → 蛋白質と順次還元していき、アンモニア態窒素や尿素態窒素に比べてその効果が著しく早く発揮する。また、硝酸カルシウムに含まれるカルシウムは、通常の消石灰や苦土石灰と異なり、完全に水溶性であるため、施用して速効的に作物に吸収され、作物の細胞を丈夫にし、カルシウム欠乏によるトマトの尻腐病とレタス、イチゴなどのチップバーン、キャベツとレタスの芯腐れ等の生理障害を防ぎ、茎や葉を強固にし、病虫害に対する抵抗力を高める効果がある。トマト、イチゴ等の施設栽培には欠かせない肥料である。

 

1.成分と性質

硝酸カルシウム4水塩(Ca(NO3)24H2O)は無色無味の結晶で、高温に弱く、加熱乾燥ができず、製品に少量の遊離水が残されているため、通常では湿っぽい感じである。吸湿性が高く、水に良く溶け、溶解度は121.2g/100ml20℃)、水溶液はpH5.05.5である。高温に弱く、41℃を超えると融けて、ドロドロの液状になる。100℃あたりから結晶水を失い、130℃で無水物になる。

硝酸カルシウム4水塩は硝酸態窒素11.8%、水溶性カルシウム(CaO換算)23.7%を含む。水に溶けると、硝酸イオンとカルシウムイオンに離解される。結晶水があるため、硝安や硝酸加里のような硝酸塩化合物と異なり、爆発などの危険性が全くない。

 

2.用途

硝酸カルシウムに含まれる窒素は硝酸態窒素で、カルシウムも完全水溶性なので、作物に直接に吸収でき、速効性肥料に属する。水溶性カルシウム含有量が高く、養液栽培肥料のカルシウム養分供給源として広く使用される。一部は追肥として水に溶かしてから畑に栽培される果菜類や葉菜類、園芸作物に施用される。

畑に施用する場合は、カルシウムイオンが交換性塩基として水素イオンやナトリウムイオンと置き換え、土壌コロイドによく吸着され、土壌の塩基種類と塩基飽和度の改善に役立つ。硝酸カルシウムは水溶液が弱酸性で、化学的酸性肥料に属するが、施用後、硝酸態窒素と一部の水溶性カルシウムが作物に吸収されて、残されているカルシウムイオンが交換性塩基として土壌中の水素イオンと置き換え、土壌pHを上げる効果があり、生理的アルカリ性肥料に分類される。

硝酸態窒素とカルシウムイオンが葉の細胞に直接吸収できるので、葉面散布用肥料としても使用できる。

 

3.施用後土壌中の挙動

硝酸カルシウムは畑に施用後、含まれる硝酸イオンが陰イオンで、土壌に吸着されず、水分と一緒に移動し、流失しやすい。カルシウムイオンが陽イオンで、土壌に吸着され、土壌塩基となり、流失がほとんどない。

硝酸カルシウムは水によく溶けるため、施用後ほかの窒素肥料より土壌ECと浸透圧を速く上昇させる。但し、硝酸態窒素の含有量が低く、通常の施肥量としては濃度障害を起こす可能性が低い。

施用後、硝酸態窒素とカルシウムイオンは共に作物に吸収され、残留する成分がないため、長期施用しても土壌を酸性化させる恐れがない。逆に、カルシウムイオンの含有量が硝酸イオンの約2倍で、吸収しきれないカルシウムイオンは土壌塩基として残され、土壌pHをアルカリ性に傾ける作用がある。

硝酸カルシウムの肥効発現は天候や土壌種類にほとんど影響されず、非常に早く、大体施用2日後に見られる。但し、肥効持続期間は短く、1525日しかない。

4.施用上の注意事項

硝酸カルシウムは単独施用する場合が多い。その施用に当って、下記の注意事項を守る。

  1. りん酸肥料と混ぜない
    硝酸カルシウムの水溶性カルシウムイオンはりん酸イオンと化学反応を起こし、難溶性のりん酸カルシウム化合物を生成し、硝酸カルシウムとりん酸肥料両方の肥効を大幅に下げる恐れがある。特に養液栽培に使う場合は、必ず別途に溶かしてから混合し、すぐ希釈して給液する。
  2. 畑に施用する場合は基肥にせず、追肥として使う
    硝酸カルシウムはその中の硝酸態窒素が土壌に吸着されず、肥効持続期間も短く、基肥としての肥効が低い。肥料効果を発揮させるには、追肥として溶かしてから施用する。
  3. 水田での施用を避ける
    硝酸カルシウムは水に溶けて離解した硝酸イオンとカルシウムイオンが容易に水と一緒に流失するので、水田での施用は肥効が低いうえ、地面水と地下水の水質汚染の原因にもなる。但し、速効性の穂肥として、葉面散布で一定の効果がある。
  4. 開封後の吸湿を防ぐ
    硝酸カルシウムは吸湿性が高く、潮解性もあり、使用後、残ったものを袋に密閉して、早めに使い切る。また、融点が41℃で低く、夏季には高温のハウスなどに放置せず、直射日光を避けて保管する。