肥料データベース
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硝酸加里
硝酸加里(KNO3)は硝酸のカリウム塩である。自然界には窒素有機化合物はアルカリ性環境に於いて細菌の分解作用と複雑な化学反応により分解され、天然の硝酸加里を形成することがある。特に気候温暖なインド、中国南部、メキシコ等の地域では、雨季直後の暑い乾季に土で作った古い家屋の壁に粉状の硝酸加里が析出して付着することがよく見られる。一方、チリや中国新疆など乾燥地域には硝酸加里を含むいわゆるチリ硝石の加里鉱脈があり、古くから採掘・利用されてきた。
硝酸加里は強力な酸化性物質で、助燃性と爆発性が高く、古くから黒色火薬の原料として軍事や花火に供してきた。現在にも一部爆薬の原料として使われている。
硝酸加里は完全水溶性で、硝酸性窒素と水溶性加里を有し、溶解して、窒素と加里を放出し、ともに作物に吸収され、残留物が全くないという特性があり、養液栽培や葉面散布用の肥料としてよく使われている。
1.成分と性質
硝酸加里の主成分は硝酸カリウム(KNO3)である。純粋の硝酸カリウムは無色~白色の結晶性粉末、カリウム含有量38.6%(加里(K2O)換算では46.5%)、窒素(N)13.9%、水によく溶け、溶解度が温度により大きく変化し、水温が高いほど溶解度が高くなる。室温(20℃)の溶解度19.4g/100ml、水溶液のpH7.0、中性を呈し、苦味を伴う塩味である。吸湿性が高く、固結しやすい。融点334℃で、340℃を超えると分解し、酸素を放出して、亜硝酸カリウムを生成する。440℃を超えるとさらに窒素、酸素とカリウムに分解する。常温下の化学反応性が高く、衝撃などを受けると、爆発する可能性がある。したがって、国連分類では5.1類に属する酸化性物質、本邦の消防法では第1類酸化性固体、危険等級 Iと指定される。
肥料用硝酸加里は加里(K2O)含有量43~46%、窒素含有量12.5~13.5%、白色の結晶性粉末のものが多い。熔融造粒法で造粒された2~4mmの白い球状品も一部ある。大体造粒された硝酸加里はその化学反応性が抑えられ、消防法に非危険物として取扱うことが認められる。異物としては少量の塩化カリウム、硝酸カルシウムなどが含まれている。水溶液のpH5.0~8.0、苦味を伴う塩味である。
硝酸加里は窒素と加里を含み、本邦の肥料分類に化成肥料に属するが、加里含有量が窒素含有量の3倍以上もあり、実際に加里養分を有する肥料として取扱うことが多いので、加里系肥料に帰属して説明する。
硝酸加里はその水溶液がほぼ中性で、化学的中性肥料に属する。施用後、加里と硝酸性窒素が作物の養分として吸収され、残留成分がなく、土壌を酸性化させることがない。したがって、生理的中性肥料に分類される。
2.用途
硝酸加里は完全水溶性のもので、溶解性が高く、土壌に施用した後、すぐ土壌溶液に溶けて、カリウムイオンと硝酸イオンを放出して、作物に吸収される。硝酸態窒素を有する速効性の加里肥料として扱うことが多い。カリウムイオンが陽イオンで、土壌コロイドによく吸着され、流失が少ないので、基肥、追肥に適する。但し、値段が高く、危険物にも指定されるため、土壌に直接施用することが少ない。主な用途は養液栽培用肥料である。また、カリウムイオンと硝酸イオンが葉の細胞にも直接に吸収されることができるので、葉面散布用肥料としても使われている。
硝酸加里は強酸化性物質なので、衝撃を受けると爆発する危険性がある。特に草木灰など炭素を有する物質または還元性物質と混ぜる場合は、その危険性がさらに高くなる。したがって、施用、輸送や保管に注意深く取り扱う必要がある。ただし、造粒された粒状品はその化学反応性が抑えられているので、非危険物に認定され、通常の化学肥料と同じように取り扱うことができる。
3.施用後土壌中の挙動
硝酸加里は高価の加里肥料として、畑や水田に施用することがほとんどないので、その消費量が非常に少ない。通常、養液栽培用肥料として、別の肥料と混合して、水に溶かしてから施用するか、または葉面散布肥料として施用する。
硝酸加里が水に溶けてイオン化しやすい性質を有する。直接土壌に施用する場合は、溶解して放出したカリウムイオンは陽イオンで、土壌コロイドによく吸着されるので、土壌中の移動がほとんどない。同時に生成した硝酸イオンが陰イオンで、土壌に吸着されず、水分と一緒に移動し、流失しやすい。
硝酸加里が溶解後に生成したカリウムイオンと硝酸イオンは土壌中にほかの物質と結合して難溶性化合物を生成することがなく、施用後土壌ECと浸透圧を速く上昇させる。一回に多量施用する場合は、硝酸加里がもたらす濃度障害により、種子の発芽や初期生長が阻害される恐れがあり、生育期の植株にも肥料焼けが発生する可能性がある。
硝酸加里の肥効発現は天候にほとんど影響されず、非常に早く、大体施用2日後が見られる。硝酸態窒素の肥効が10~20日で短いが、加里肥料としての肥効持続期間は長い。
硝酸加里は生理的中性肥料であるため、加里と窒素養分が作物に吸収された後、残留成分がほとんどない。長期施用しても土壌を酸性化する恐れがない。
4.施用上の注意事項
硝酸加里は高価の加里肥料として、主に養液栽培肥料と葉面散布肥料として使われている。施用には制限がほとんどないが、取扱いに注意が必要である。
- 保管と輸送に可燃物、還元性物質、高温と衝撃を避ける
硝酸加里の粉品は危険物に指定され、保管では危険物倉庫を除き、1ヶ所の最大保管量が300kg以下という規制がある。また、可燃物、還元性物質と混合すると爆発の可能性があり、特に高温と衝撃を与えると爆発する可能性が非常に高い。ただし、2mm以上の粒状品では表面積が小さくなり、外部との接触が減り、安全性が高くなる。消防庁の認可で危険物から解除され、普通物と同様に取り扱うことが可能である。 - 高濃度の過剰施用をしない
養液栽培または葉面散布に高濃度の過剰施用では、濃度障害で作物の水分吸収機能を阻害し、肥料焼けが発生する恐れがある。必ず処方通りその濃度と施用方法をきちんと守る。