肥料データベース
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水酸化マグネシウム(水マグ)肥料
水酸化マグネシウム(水マグ)肥料は天然鉱物のブルーサイト(brucite)を粉砕したものである。天然鉱物だけを粉砕して、化学工程を経ていないため、日本農林規格の有機JAS法に対応する有機肥料である。
原料のブルーサイトは水滑石やブルース石とも呼ばれ、原石は六方晶系、白色板状の柔らかい鉱物で、比重は2.39、モース硬度は2~2.5である。化学組成は水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)であるが、Mgの一部がFeやMnなどに置換されることで、灰白色や淡青色等を呈することもある。中国北部の北朝鮮との国境地帯、ロシアのウラル地域やシベリヤ、カナダのケベック、南アフリカなどが産地である。タルク、マグネサイト、ドロマイト、蛇紋石などのマグネシウム鉱物と共生していることが多い。
1.成分と性質
水酸化マグネシウム肥料は灰白色の粉末または造粒された灰白色の粒状品である。臭いがなく、養分含有量はく溶性苦土57~62%だけで、窒素、りん酸、加里が全く含まれていない。
酸とアンモニウム塩の溶液に可溶、水には難溶、水への溶解度は1.2 mg/100cm3、水溶液のpH10.5、特異な薄い苦味と渋味をする。
吸湿性がなく、長期保管しても固結しない。
アルカリ性を示すため、化学性ではアルカリ性肥料に分類される。施用後、土壌pHをアルカリ性にする作用があり、生理的アルカリ性肥料にも属する。
2.用途
水酸化マグネシウムは環境分野に排煙脱硫剤や酸性排水の中和剤として廃棄物処理施設や排水処理施設で排煙脱硫と排水処理で利用され、その需要量が水酸化マグネシウム全体消費量の約60%を占めている。また、水酸化マグネシウムは難燃効果があり、ハロゲン系やりん系の難燃剤と比較して、難燃効果は低いだが、環境負荷の低い難燃剤としてプラスチック樹脂や建材などに利用されている。食品と医薬の分野では水酸化マグネシウムは人体に対する安全性が確認され、食品添加物としてはpH調整剤や色調安定剤など、医薬品としては制酸剤や下剤などに使用されている。
農業分野では水酸化マグネシウムがく溶性苦土を含んでいるため、土壌に施用した後、作物根から放出された根酸により分解され、マグネシウムイオンが遊離して根に吸収される。従って、緩効性の苦土肥料として使われる。また、アルカリ性肥料として、土壌酸性を調整する効果もある。
苦土含有量が非常に高いので、苦土養分の補給には適している。ただし、苦土成分がすべてく溶性なので、速効性がなく、追肥に適せず、基肥として施用する。
また、水酸化マグネシウムは反応性が乏しいので、ほかの肥料と混ぜて一緒に施用しても化学反応が生じず、ほかの肥料に含まれているアンモニアのガス化や水溶性りん酸の不溶化が起きない。化成肥料とBB配合肥料の苦土成分の原料としても使われている。
3.施用後土壌中の挙動
水酸化マグネシウムは施用後、強酸性土壌では苦土成分が土壌溶液にゆっくり溶けて、放出されたマグネシウムイオンが作物に吸収利用たり、土壌コロイドに吸着されたりする一方、水酸化物イオン(OH-)が土壌中の水素イオン(H+)と結合して、水(H2O)を生成するので、土壌酸性を矯正する。弱酸性~中性の土壌では苦土成分が根から出る根酸のような弱い酸に溶けて、根に吸収される。また、土壌有機物の分解過程で発生した有機酸にも溶けるので、根酸分泌量の少ない作物に吸収利用されることができる。
水酸化マグネシウムの肥効発現は遅いが、肥効持続期間は相当長い。基肥として年一回の施用で充分である。
4.施用上の注意事項
水酸化マグネシウム肥料の施用には下記の注意事項がある。
- 基肥として施用する
肥効発現は遅く、土壌pH調整の効果があり、追肥としては不適で、基肥として施用する。 - 全層施肥又は下層施肥にする
肥料効果を高めるため、作物根との接触を増やす必要がある。全層施肥又は下層施肥にすべきである。全層施肥とは肥料を田んぼや畑に施用してから耕うんして作土層に全面混入するという施肥方法である。下層施肥とは作土層にやや深い穴または溝を掘り、肥料を施用してから薄く覆土してその上に播種や定植する方法である。 - 窒素、りん酸、加里と合わせて施用する
水酸化マグネシウム肥料は苦土養分の供給に限られ、窒素、りん酸、加里の三大養分が全く含まれていない。単独施用では肥料効果が見えにくく、窒素、りん酸、加里と混ぜて、化成肥料にするかBB配合肥料にして施用したほうがよい。 - 過剰施用をしない
水酸化マグネシウムは土壌pHを調整する効果があり、多量施用の場合に酸性土壌のpHを高めることができる。一方、過剰の苦土の存在は加里と石灰と拮抗して、作物の加里吸収を阻害することがある。