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石灰

石灰はカルシウムを含有する肥料である。作物にカルシウムを供給するほか、土壌pHを矯正する作用もあり、さらに土壌消毒にも効果があり、農業生産に欠かせないものである。

石灰の原料は石灰石である。日本は良質の石灰石に恵まれており、国内で自給できる数少ない資源の一つである。2018年には約14,270万トンの石灰石が採掘され、そのうち約6,250万トンがセメント、約3,530万トンが骨材と道路用、約1,910万トンが製鉄に使われる。肥料に使われているのはその極一部しかない。

石灰はその成分により生石灰と消石灰、苦土消石灰に分けられる。生石灰は吸湿性が強く、放置すると空気中の二酸化炭素と自発的に反応し元の炭酸カルシウムに戻る。また、水を加えると発熱するため、消防法の危険物3類に指定されていたが、1989年の消防法改正によって危険物から除外された。ただし、現行法においては、危険物の規制に関する政令第1条の10に「生石灰(酸化カルシウム含有量80%以上のもの)を500kg以上取り扱う(貯蔵する)場合、最寄り消防署への届出義務」が規定されている。したがって、肥料としての石灰は消石灰を指すことが多い。最新のデータでは、2018年度日本国内生石灰生産量757.5万トン、外販量715.6万トン、消石灰生産量138万トン、外販量90.5万トンである。

 

1.成分と性質

  1. 生石灰
    生石灰は鉱山から採掘した石灰石を原料にして、水洗・篩分けした後、焼成炉の中で900℃~1,200℃の高温で焼いて作られる白色の塊状または粉状のものである。
    生石灰の主成分は酸化カルシウム(CaO)である。純粋の酸化カルシウムは無色の結晶状粉で、カルシウム含有量71.4%(CaO換算で100%)、石灰質肥料の中ではカルシウム含有量が一番高い。水に難溶、溶解度0.119g/100ml(25℃)しかないが、水と激しく反応し、大量の熱を発生して、水酸化カルシウム(消石灰)に変化する。この過程は生石灰の消化と呼ばれる。酸化カルシウムが水と反応して生成した消石灰が強いアルカリ性を示す。
    生石灰は酸化カルシウムのほか、石灰石由来の酸化マグネシウム、ケイ酸化合物、粘土鉱物などの異物が一部含まれている。外観では白色から青白色のものが多いが、鉄やアルミニウムの多い石灰石から作ったものは黄色~茶色を呈することもある。市販の生石灰はCaO含有量が90~95%のものが多い。
  2. 消石灰
    消石灰は生石灰の危険性を弱めるために、生石灰に水を反応させて作らせたものである。
    消石灰の主成分が水酸化カルシウム(Ca(OH)2)である。純粋の水酸化カルシウムは白色粉末状で、カルシウム含有量54%(CaO換算75.6%)、水に難溶、溶解度は0.17g/100ml、水溶液が強いアルカリ性を示す。空気中の二酸化炭素とゆっくり反応して、炭酸カルシウムを生成する。
    消石灰は水酸化カルシウムのほか、石灰石由来の水酸化マグネシウム、ケイ酸化合物、粘土鉱物などおよび空気中の二酸化炭素と反応して生成した炭酸カルシウムが一部含まれている。市販の消石灰はCaO含有量が60~70%のものが多い。
    本邦の肥料公定規格では石灰質肥料の品質評価に使うアルカリ分という指標は土壌酸性を中和する能力で、石灰と苦土のアルカリ総量を表わしたものである。生石灰と消石灰のアルカリ分はその製品中のCaO含有量と同じものである。 
    石灰は難溶性ではあるが、水溶液が強いアルカリ性呈するので、化学的アルカリ性肥料に属する。施用後、土壌をアルカリ性にする能力が強く、生理的アルカリ性肥料に分類される。
    石灰石の代わりにドロマイト(苦灰石)を原料にして、生石灰と同じ製造工程で作ったものは苦土生石灰と呼ばれる。また、苦土生石灰を加水消化したものは苦土消石灰である。苦土生石灰と苦土消石灰には酸化カルシウムまたは水酸化カルシウムのほかに一部の酸化マグネシウムまたは水酸化マグネシウムが入っている。苦土生石灰はく溶性苦土含有量25~30%、苦土消石灰はく溶性苦土含有量15~20%のものが多い。その性質は生石灰または消石灰と似ている。

2.用途

工業分野には生石灰は製鉄用とセメント用原料として多く使用され、陶磁器、ガラスの副原料にも利用される。カーバイド(炭化カルシウム)、消石灰の原料でもある。農業分野では強いアルカリ性を利用して、酸性土壌の中和材として土壌pH調整とカルシウム養分の供給に使われている。また、土壌害虫と微生物の繁殖を抑制し、不活性化する効能もある。ただし、危険物と劇物の指定を受けているため、その使用量が消石灰よりはるかに少ない。

消石灰は強いアルカリ性を有するが、危険物と劇物の指定を受けていないため、化学工業に於いて試薬・農業・食品や化粧品のpH調整剤、カルシウム補充剤、化学合成原料、顔料、殺菌剤、歯科治療における感染根管処置時の貼薬剤などに用いられる。環境分野では汚染水の凝集剤ほかに、火力発電所の排ガス中の硫黄酸化物の除去にも用いられる。また、凝集性と粘着性があるため、重要な建築材料でもある。

農業分野では消石灰の主な用途は酸性化した土壌の中和材として土壌pHの調整と同時にカルシウム養分を供給する。また、土壌害虫と微生物の繁殖を抑制し、不活性化する効能があり、土壌消毒剤として土壌伝染性病虫害の予防には役立つ。この特性を利用して、家畜養殖では高病原性鳥インフルエンザや豚コレラなどの防除にも活用されている。

消石灰は強いアルカリ性があるため、作物の葉や根に直接に接触すると損傷させる可能性が非常に高い。したがって、主に基肥として施用させ、追肥には適しない。

苦土生石灰と苦土消石灰の用途は生石灰と消石灰と同じである。ただし、マグネシウムを含んでいるため、苦土養分の供給にもなる。また、施用後土壌中の挙動と施用上の注意事項は石灰とほぼ同じである。

3.施用後土壌中の挙動

生石灰と消石灰は土壌中の挙動がほぼ同じである。施用後、土壌溶液と反応して、水酸化物イオン(OH)が放出され、土壌中の水素イオン(H+)と反応して、水となる。土壌中の水素イオンの減少により、土壌酸性が中和される。これは石灰の土壌pHを調整する原理である。土壌pHの上昇に伴い、鉄とアルミニウムの溶出が減り、すでに土壌溶液中に存在している活性鉄と活性アルミニウムイオンが沈殿し、有害度が大きく減少する。また、土壌有機物の分解時に発生する有機酸も中和され、有機物の分解にも役立つ。

石灰は土壌団粒構造の形成にも寄与し、土壌保水性と通気性をよくする。このような土壌では耕耘しやすく、農作物の根の伸張が容易で、養分の吸収も良くなり、生産性が高い。

また、カルシウムイオンが土壌塩基として残され、土壌塩基飽和度と交換性塩基バランスの改善に役立つ。

石灰は施用後、土壌中の反応が速く、速効性の土壌pH調整材である。副作用として、多量施用の場合は土壌pHが急激に上昇し、一時的または局部的にアルカリ性に転じることがあり、鉄、マンガン、亜鉛など微量元素の不溶化が進行し、欠乏症状が発生する恐れがある。また、多量のカルシウムの存在により、アンモニア態窒素、カリウム、マグネシウムとの拮抗作用が発生し、これらの養分の吸収が抑制される可能性がある。

 

4.施用上の注意事項

生石灰と消石灰は強いアルカリ性を有するため、その施用には下記の注意事項がある。

  1. 過剰施用、むやみの施用をしない
    石灰の副作用を防ぐため、土壌診断を行って、土壌酸性を中和するための必要な適量を算出して施用することが重要である。
  2. 追肥にせず、基肥として使う
    直接に作物葉と根に接触する場合は植物細胞と組織を損傷させる恐れがあり、施用後一時的に土壌をアルカリ性にすることもあるので、土壌酸性の中和に使う場合は基肥に適している。
  3. 均一に施用する
    局部土壌の未施用または過施用を防ぐため、全層施肥にする。全層施肥とは石灰を田んぼや畑に施用してから耕うんして作土層に全面混入するという施肥方法である。全層施肥により土壌との混合がよく、土壌酸性の中和効果が高い。ただし、果樹園、スイカ、トマトなど単位面積の定植数の少ない作物では樹木周辺または苗の定植穴周辺に施用し、耕うんして土壌に混合するいわゆる局部施肥もある。
  4. ほかの化学肥料と合わせて施用しない
    強いアルカリ性があり、尿素、硫安、塩安、硝安、りん安(DAPMAP)などと一緒に施用すると、アンモニアをガス化させ、揮散する恐れがある。過りん酸石灰、重過りん酸石灰などと一緒に施用すると、水溶性りん酸を減少させる恐れがある。石灰を施用した後、数日を経過してからほかの化学肥料を施用することを奨める。
  5. 施用後すぐ播種や定植しない
    石灰の強アルカリ性が種や苗への悪影響を避けるため、施用後数日以内播種または定植しない。
  6. 施用時に保護具を付ける
    石灰が皮膚や粘膜に強い刺激性があり、目に入ると失明する危険性がある。施用時に保護手袋や保護メガネを装着するなど、安全作業に注意する。