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硫酸加里

硫酸加里は農業分野に於いて、硫酸カリウム(K2SO4)を呼ぶ名称である。肥料のほか、化学工業上にも重要な化学原料である。硫酸加里は約70%が乾涸した古塩湖にあるカイナイト(kainite)、ラングバイナイト(langbeinite)、ポリハライト(polyhalite)のような加里を有する硫酸塩鉱物または塩湖の硫酸加里を豊富に含む鹹水から作られたもので、約30%が塩化加里を原料として加工されたものである。加里塩類の中に生産量と消費量が塩化加里に次ぐ二番目で、2018年の世界消費量約780万トンと推定される。

農業分野に於いて、硫酸加里は加里含有量が高く、水に溶けやすく、価格も割と安いため、汎用の加里肥料として広く使われている。生産量と消費量がK2O換算では加里肥料の約8~10%を占めている。

 

1.成分と性質

硫酸加里の主成分は硫酸カリウム(K2SO4)である。純粋の硫酸カリウムは無臭の白色結晶で、カリウム含有量44.7%(加里(K2O)換算では54%)、硫黄(S)18.4%、水によく溶け、溶解度が11.1g/100ml(20℃)、水溶液はpH7.0の中性で、苦味を伴う辛味である。吸湿性が低く、固結しにくい。熱安定性が非常に高く、1100℃まで加熱しても融けるだけで、分解しない。常温下の化学反応性が低く、安定している。

肥料用硫酸加里は塩湖の硫酸塩鉱物と鹹水から作った資源型硫酸加里と塩化加里を原料にしてマンハイム法で作った加工型硫酸加里の2種類がある。異物の量により、加里(K2O)含有量45~52%で、50%のものが一番多い。大体、資源型硫酸加里では異物としての塩化ナトリウムと塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムが多く、灰黄色、灰緑色または浅褐色を呈し、加里含有量がやや低め、50%以下のものが多く、水溶液のpH7.0~8.0、苦味を伴う塩味のある辛味である。加工型硫酸加里では異物としての硫酸ナトリウムと硫酸マグネシウムが少なく、白色~灰白色で、加里含有量が50~52%、0.5~1.5%の遊離酸(硫酸または塩酸)が含まれているため、水溶液のpH6.0~6.5、弱酸性を呈し、苦い辛味を伴う酸味である。粉品と粒状品がある。粒状品は圧片造粒法で作った不規則な形状の粒子である。

硫酸加里はその水溶液がほぼ中性で、化学的中性肥料に属するが、施用後、加里が作物に養分として吸収され、硫酸イオン(硫酸根)だけが土壌に残留して、土壌を酸性化させる。したがって、生理的酸性肥料に分類される。

2.用途

硫酸加里は完全水溶性のもので、溶解性が高く、土壌に施用した後、水に溶けて、カリウムイオンを放出して、作物に吸収される。速効性の加里肥料に属する。また、約18%の硫黄(S)を含み、植物の硫黄養分供給源にもなる。カリウムイオンが陽イオンで、土壌コロイドによく吸着され、流失が少ないので、基肥、追肥に適して、汎用性のある加里肥料である。濃度と溶解性が高いが、硫酸イオンが存在して、濃度障害が発生しにくく、種肥にも適している。高純度の硫酸加里(K2O含有量52%のもの)は葉面散布用肥料としても使われている。

作物種について、ネギ、玉ねぎ、ニンニクなど硫黄を嗜好する作物、モモ、ブドウ、スイカなどの果物類、ジャガイモやサツマイモのイモ類、タバコなど塩素感受性作物に一番適している。小麦やトウモロコシのような食糧作物に対しては塩化加里と同等の肥効があるが、値段が高いため、ほとんど使われていない。イネに対して、肥料効果が塩化加里より低いほか、残留された硫黄イオンが湛水の嫌気環境には有害な硫化水素に還元され、イネ根の発育と吸収機能を阻害するので、水田での施用を避けた方がよい。

硫酸加里は化学的中性であるうえ、反応性が乏しく、尿素、硫安、塩安などに混合してもアルカリ反応によるアンモニアの揮散が発生しない。また、過りん酸石灰や重過りん酸石灰、りん安(MAPDAP)などに混合してもりん酸の難溶化が起こらず、化成肥料とBB配合肥料の原料としても広く使われている。

 

3.施用後土壌中の挙動

硫酸加里が水に溶けてイオン化しやすい性質を有する。放出したカリウムイオンは陽イオンで、土壌コロイドによく吸着されるので、土壌中の移動がほとんどない。同時に生成した硫酸イオン(SO42)が土壌に残る。その硫酸イオンの一部が土壌中のカルシウムイオンとマグネシウムイオンなどの塩基を引きずって流失し、土壌pHを下げ、土壌を酸性化させる要因の一つである。

硫酸加里が溶解後に生成したカリウムイオンは土壌中にほかの物質と結合して難溶性化合物を生成することがないが、硫酸イオンがカルシウムと反応して、難溶性の硫酸カルシウム(石膏)を生成するので、施用後土壌ECと浸透圧を速く上昇することもなく、植物根系の養水分の吸収を阻害するいわゆる濃度障害を引き起すことが少ない。

硫酸加里が速効性であるため、その肥効は施用後23日に現れる。肥効持続期間は長く、特に有機質の多い粘土質土壌では生育期の短い作物では基肥だけ施用すれば、栽培期間中に加里欠乏症状が発生しない。生育期の長い作物では追肥の必要な場合があるが、それでも追肥回数を削減することができる。

硫酸加里は生理的酸性肥料である。加里養分が吸収された後、硫酸イオンだけが土壌に残る。硫酸イオンが洗い流しにくく、土壌に蓄積されやすいため、pHを下げて、土壌を酸性に傾ける。また、硫酸イオンが石灰(カルシウムイオン)と結合して難溶性の硫酸カルシウム(石膏)を生成し、土壌を固くする恐れもある。従って、アルカリ性土壌を除き、長期施用した場合は、土壌酸性化と硬化を防ぐために熔燐や石灰、苦土石灰のようなアルカリ性肥料または土壌改良材を施用する必要がある。

 

4.施用上の注意事項

硫酸加里は廉価の加里肥料として、加里肥料消費量の約1割を占める。単独施用も化成肥料、BB配合肥料として施用する場合も注意事項が同じである。

  1. 水田への施用を避ける
    加里養分が吸収された後、硫黄イオンが残留され、湛水の嫌気環境には有害な硫化水素に還元され、イネ根の発育と吸収機能を阻害する恐れがある。但し、老朽化水田の土壌改良と冬季乾田方式の普及などが進み、硫酸イオンを有する肥料の施用による「秋落ち」現象がほとんど見られず、水田に硫酸加里を施用しないという束縛がなくなった。
  2. 土壌酸性化に注意する
    硫酸加里は生理的酸性肥料であるため、長期多量施用する場合は土壌が次第に酸性に傾ける。時々土壌pHを計測して、pH5.0以下になれば、消石灰や苦土石灰などアルカリ性資材を使い、適正な土壌pHを戻せるように調整する。