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当社は、これまでの豊富な取り扱い経験を基に、さまざまな肥料に関する専門的な情報を集約いたしました。
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粒状硝酸石灰

肥料としての硝酸石灰は2種類がある。一つは硝酸カルシウム4水塩(Ca(NO3)24H2O)で、もう一つは硝酸カルシウムに少量のアンモニウムを添加し、反応させて生成した硝酸カルシウム・アンモニウム複塩(5Ca(NO3)2·NH4NO3·10H2O)である。硝酸石灰は硝酸態窒素と水溶性カルシウムを有し、完全水溶性であり、植物が吸収しやすく、肥効が素早く発揮できる超速効性肥料である。ここで紹介する硝酸石灰は硝酸カルシウム・アンモニウム複塩(粒状硝酸石灰と呼ばれる)に限られ、硝酸カルシウム4水塩は養液栽培専用の肥料で養液栽培肥料の篇に紹介する。

硝酸石灰に含まれる窒素は硝酸態窒素で、作物が直接に吸収することができる。作物は吸収した硝酸態窒素を自らの体内で亜硝酸 → アミノ酸 → 蛋白質と順次還元していき、アンモニア態窒素や尿素態窒素を主体とする化成肥料と比べてその効果が著しく早く発揮する。また、硝酸石灰に含まれるカルシウムは、通常の消石灰や苦土石灰と異なり、完全に水溶性であるため、施用して速効的に作物に吸収され、作物の細胞を丈夫にし、カルシウム欠乏によるトマトの尻腐病とレタス、イチゴなどのチップバーン、キャベツとレタスの芯腐れ等の生理障害を防ぎ、茎や葉を強固にし、病虫害に対する抵抗力を高める効果がある。トマト、イチゴ等の施設栽培には欠かせない肥料である。

 1.成分と性質

粒状硝酸石灰は無色無味の粉末状結晶である。吸湿性が高く、固結しやすいため、通常は造粒して、25mmの白い粒状物にしてから流通する。水によく溶け、溶解度は80g/100ml20℃)を超える。水溶液ではpH6.06.5の弱酸性を呈する。硝酸のカルシウムとアンモニウムの複塩であるため、硝酸態窒素14.4%、アンモニア態窒素1.1%を含み、全窒素量が15.5%である。また、水溶性カルシウム(CaO換算)26%を含む。水に溶けると、硝酸イオンとアンモニアイオン、カルシウムイオンに離解される。結晶水があるため、硝安や硝酸加里のような硝酸塩化合物と異なり、爆発などの危険性が全くない。

 2.用途

硝酸石灰に含まれる窒素は硝酸態窒素で、カルシウムも完全水溶性なので、作物に直接に吸収でき、速効性肥料に属する。但し、硝酸態窒素は土壌に吸着せず、容易に流失するため、基肥に適せず、追肥として果菜類や葉菜類、園芸作物に使われる。また、カルシウムイオンが交換性塩基として水素イオンやナトリウムイオンと置き換え、土壌コロイドによく吸着され、土壌の塩基種類と塩基飽和度の改善に役立つ。従って、硝酸石灰は生理的アルカリ性肥料に分類される。

硝酸態窒素とカルシウムイオンが葉の細胞に直接吸収できるので、葉面散布用肥料としても使用できる。

3.施用後土壌中の挙動

硝酸石灰が施用後、土壌溶液に溶けて、硝酸イオンとカルシウムイオンに離解される。硝酸イオンが陰イオンで、土壌に吸着されず、水分と一緒に移動し、流失しやすい。カルシウムイオンが陽イオンで、土壌に吸着され、土壌塩基となり、流失がほとんどない。

硝酸石灰は水によく溶けるため、施用後ほかの窒素肥料より土壌ECと浸透圧を速く上昇させる。但し、硝酸態窒素の含有量が低く、通常の施肥量としては濃度障害を起こす可能性が低い。

施用後、硝酸態窒素とカルシウムイオンは共に作物に吸収され、残留する成分がないため、長期施用しても土壌を酸性化させる恐れがない。逆に、カルシウムイオンの含有量が硝酸イオンの約2倍で、吸収しきれないカルシウムイオンは土壌塩基として残され、土壌pHをアルカリ性に傾ける作用がある。

硝酸石灰の肥効発現は天候や土壌種類にほとんど影響されず、非常に早く、大体施用2日後に見られる。但し、肥効持続期間は短く、1525日しかない。

4.施用上の注意事項

硝酸石灰は単独施用する場合が多い。その施用に当って、下記の注意事項を守る。

  1. りん酸肥料と混ぜない
    硝酸石灰の水溶性カルシウムイオンはりん酸イオンと化学反応を起こし、難溶性のりん酸カルシウム化合物を生成し、硝酸石灰とりん酸肥料両方の肥効を大幅に下げる恐れがある。
  2. 基肥にせず、追肥として使う
    硝酸石灰は硝酸態窒素が土壌に吸着されず、肥効持続期間も短く、基肥としての肥効が低い。
  3. 水田での施用を避ける
    硝酸石灰は水に溶けて離解した硝酸イオンが容易に水と一緒に流失するので、水田での施用は肥効が低いうえ、地面水と地下水の水質汚染の原因にもなる。但し、速効性の穂肥として一定の効果があるが、施用後に水田に入水と落水せず、水の流れを一定期間に止める必要がある。
  4. 開封後の吸湿を防ぐ
    硝酸石灰は吸湿性が高く、潮解性もあり、使用後、残ったものを袋に密閉して、早めに使い切る。