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MAP(りん酸一安)

MAPMonoammonium phosphate、りん酸一安)はりん酸とアンモニアを中和して合成したりん酸のアンモニア塩である。純度98%以上の高純度ものは重要な工業用化学薬品で、主に消火剤や発酵醸造における酵母の栄養源、食品工業の発酵膨張剤、pH調節剤、光学工業の屈折結晶体、農林水産業の家禽家畜飼料の栄養強化剤などに使われている。

MAPの最大用途は肥料である。りん鉱石から抽出された粗りん酸を原料にして合成した純度の低いものは肥料用途である。市販されている肥料用MAPは可溶性りん酸(P2O54250%、そのうち水溶性りん酸3848%、アンモニア性窒素(N911%を有する。高濃度のりん酸と窒素を含んでいるため、単独使用のほか、化成肥料またはBB肥料の原料としても幅広く使われ、化学肥料として非常に重要な位置を占め、りん酸系化学肥料の中には生産量と消費量がDAPに次いで二番目多い。

肥料分類上、MAPはりん酸と窒素を有するため、化成肥料に分類されるが、りん酸含有量が窒素の4倍以上もあり、用途も専らりん酸養分の補充に使用するので、りん酸系肥料として取り扱う所が多い。

1.成分と性質

MAPの主成分はりん酸二水素アンモニウム((NH4) H2PO4)である。純粋のりん酸二水素アンモニウムは無色の正方晶体で、りん酸(P2O5)含有量61.8%、窒素(N)含有量12.2%、水によく溶け、溶解度が39.5g/100ml(20℃)、水溶液のpH4.4、酸性を呈する。吸湿性がやや高いが、固結しにくい。熱安定性が高く、190℃までの高温に耐える。

肥料用MAPは純度が低く、りん酸二水素アンモニウムのほか、第一りん酸カルシウム(Ca(H2PO4)2H2O)、りん酸マグネシウム(MgHPO4)、りん酸鉄(FePO42H2O)などのりん酸塩も多く混ざっている。これらのりん酸塩が水溶性のほか、可溶性のものもあるので、肥料用MAPのりん酸含有量が可溶性りん酸4252%、そのうち水溶性りん酸3850%、窒素912%であるが、市場には5561%(可溶性りん酸4450%、窒素1011%)のMAPが一番多く出回っている。

肥料用MAPは白色~灰白色のものが多いが、原料粗りん酸に入っている異物の種類と量により生産した製品が灰黄色または灰褐色を呈するものもある。化成肥料原料用は粉品で、単独施用とBB肥料用は造粒した粒状品である。

MAPは多量の水溶性りん酸の存在により水溶液が酸性を呈し、化学的酸性肥料に属するが、施用後、りん酸とアンモニア態窒素がともに作物の養分として吸収されるので、土壌に残留されるものがほとんどなく、生理的中性肥料に分類される。長期使用しても、土壌を酸性化させる恐れがほとんどない。

2.用途

MAPはそのりん酸の大部分が水溶性のもので、土壌に施用した後、水に溶けて、りん酸イオンを放出して、作物に吸収される。また、含まれているアンモニア態窒素も完全水溶性のもので、速効性の化学肥料である。

MAPはりん酸の量がアンモニア性窒素の4倍もあり、単独では基肥と追肥ともに使用できる。りん酸量が多く、窒素量が少なく、尿素、硫安、塩安などを混合してもアルカリ反応によるアンモニアの揮散が発生せず、熱安定性も高いので、化成肥料の原料として適している。また、粒状品はBB配合肥料の原料としても広く使われている。

生理的中性肥料で、連用しても土壌を酸性化させない。硫酸を含まないので、老朽化水田に適する。

 

3.施用後土壌中の挙動

施用後、りん酸二水素アンモニウムは土壌溶液に溶けて、りん酸イオンとアンモニアイオンを放出し、作物の吸収に供する。

施用後、MAP粒子の周辺にりん酸イオンとアンモニアイオンの飽和土壌溶液のクラスターを形成する。その後りん酸イオンとアンモニアイオンが濃度勾配によりゆっくり周辺の土壌溶液へ拡散するが、アンモニアイオンの存在で、土壌粘土鉱物から鉄とアルミニウム、カルシウム、マグネシウムなどの溶出が少なく、りん酸イオンが活性鉄イオンとアルミニウムイオンと結合し、難溶性のりん酸鉄とりん酸アルミニウムを生成して沈殿することも少ない。これは、MAPの土壌りん酸固定が過りん酸石灰や重過りん酸石灰などより少ないわけである。

但し、強酸性の熱帯と亜熱帯の赤土やアルミニウムの多い日本の黒ぼく土では土壌中の活性鉄とアルミニウムイオンの量が多く、りん酸の土壌固定力が高いので、強酸性土壌と黒ぼく土に施用する場合はりん酸固定による養分利用率の低下が避けられない。一方、カルシウムイオンとナトリウムイオンの多い強アルカリ性土壌に於いて、MAPが粒子周辺の土壌pHを下げて、りん酸イオンと土壌中のカルシウムイオンとの結合が抑えられ、土壌のりん酸固定作用を弱らせる効果がある。従って、アルカリ性土壌に於いてMAPの肥効がDAPより優れている。

MAPは施用後、肥料効果が大体35日後に見られる。肥効の持続期間も相当長い。生育期の短い作物では基肥だけ施用すれば、りん酸養分欠乏の問題が発生しない。栽培期間の長い作物では追肥が必要となる場合がある。 

 

4.施用上の注意事項

MAPは単独施用と化成肥料、BB配合肥料として施用する場合の注意事項が同じである。

  1. 強酸性土壌への施用を避ける
    強酸性土壌が活性鉄とアルミニウムイオンの量が多く、土壌のりん酸固定作用が強い。強酸性土壌へ施用する前に土壌pHを調整する必要がある。なお、強酸性土壌に施用する場合は、DAPの肥効がMAPより高い。一方、アルカリ性土壌にはMAPの土壌のりん酸固定に大きな問題が起きない。
  2. アルカリ性肥料との混合施用を避ける
    MAPはアルカリ性肥料と混ぜると、化学反応が起き、アンモニア性窒素を放出してガス化し、揮散する恐れがある。但し、混合せず、施用前または施用後、別途でアルカリ性肥料を施用しては問題が起きない。
  3. 基肥の場合は全層施肥、側条深層施肥か下層施肥にする
    りん酸の土壌固定とアンモニアガスの揮散を減らすとともに作物根系との接触を増やすため、基肥として施用する場合は全層施肥、側条深層施肥または下層施肥にする。全層施肥とは肥料を耕地に施用してから耕うんして作土層に全面混入するという施肥方法である。側条深層施肥とは肥料を作土の表層に出ないように田んぼの条や畑の畦に沿って作物株の近くに溝を掘って、肥料を溝に施用してから覆土する施肥方法である。下層施肥とは作土にやや深い穴または溝を掘り、肥料を施用してから薄く覆土してその上に播種や定植する方法である。
  4. 追肥の場合は深く施用する
    りん酸の土壌固定とアンモニアガスの揮散を減らすために側条深層施肥が有効である。
  5. 単独施用時に窒素肥料を追加する
    MAPの窒素含有量が低く、単独施用の場合は窒素養分が足りない恐れがある。尿素や硫安などの窒素肥料を追加して一緒に施用すれば、肥効が一層高くなる。