肥料データベース
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苦土石灰
苦土石灰はドロマイト(苦灰石)を粉砕するだけで作ったもので、石灰質肥料の一つである。生石灰や消石灰のような危険性がなく、作物にカルシウムとマグネシウムを供給するほか、土壌pHを矯正する作用もあり、苦土養分を有する廉価の石灰質肥料としてよく使われている。
また、ドロマイトを原料として作った石灰質肥料は苦土石灰のほか、苦土生石灰と苦土消石灰もある。これは石灰石の代わりにドロマイトを高温煆焼して得た製品である。その性質と用途などは「石灰」にまとめられているので、そちらをご参考ください。
1.成分と性質
苦土石灰の主成分が炭酸カルシウムと炭酸マグネシウムの複塩(CaMg(CO3)2)である。純粋の炭酸カルシウム・炭酸マグネシウム複塩は白色結晶性粉末状で、ドロマイト産地によりそのカルシウムとマグネシウム含有量の比率が大きく異なる。大体カルシウム含有量18~30%(CaO換算25~48%)、マグネシウム含有量3~15%(MgO換算5~25%)、水に不溶、溶解度は<0.0005g/100ml(25℃)、水溶液が弱アルカリ性を示す。吸湿性がほとんどなく、固結する恐れがない。ただし、強酸と強く反応し、二酸化炭素を放出し、その酸のカルシウム塩とマグネシウム塩になる。
苦土石灰は炭酸カルシウムと炭酸マグネシウムのほか、ドロマイトに混ざっているケイ酸化合物、粘土鉱物などの異物が一部含まれている。市販の苦土石灰はCaO含有量が34~48%、可溶性苦土5~15%、石灰と苦土の合計アルカリ分50~55%のものが多い。粉品と粒状品があり、機械施肥に有利の粒状品が歓迎されている。粉品は灰白色、粒状品は黄色~黄褐色のものが多い。粒状品が灰白色以外の色を帯びるのは造粒時に添加された造粒促進材(廃糖蜜など)の影響で、造粒促進材の色が製品の色となった。なお、粉品と粒状品は土壌pH調整の効果が同じである。
苦土石灰は難溶性ではあるが、水溶液が弱アルカリ性を呈し、化学的アルカリ性肥料に属する。施用後、ゆっくり土壌pHをアルカリ性にする能力があり、生理的アルカリ性肥料にも分類される。
なお、本邦の肥料公定規格では石灰質肥料の品質評価に使うアルカリ分という指標は土壌酸性を中和する能力で、石灰と苦土のアルカリ総量を表わしたものである。苦土石灰のアルカリ分計算式は
アルカリ分= CaO含有量(%) + MgO含有量(%) × 1.39
2.用途
苦土石灰の主な用途は酸性になった土壌の中和剤として土壌pHの調整と同時にカルシウムとマグネシウム養分を供給する。水に難溶、弱アルカリ性であるため、作物の葉や根に直接に接触しても被害を及ぼす恐れが全くなく、非常に安全である。したがって、基肥と追肥とも適する。
反応性が乏しいので、施用後、すぐほかの化学肥料を施用しても差し支えない。粒状品ではほかの肥料と混ぜて一緒に施用しても化学反応が生じず、ほかの肥料に含まれているアンモニアのガス化や水溶性りん酸の不溶化が起きない。また、過剰施用しても作物の生育への悪影響や拮抗作用によるほかの元素の吸収阻害がほとんど起きない。
緩効性でアルカリ性も弱いので、土壌中の中和反応は徐々に進み、1回施用すれば、1~数年間土壌酸度を中和する効果が続く。
3.施用後土壌中の挙動
苦土石灰は施用後、徐々に土壌中の水素イオン(H+)と反応して、分解し、二酸化炭素と水を生成する。土壌中の水素イオンを減らすことで、土壌酸性が中和される。これは苦土石灰の土壌pHを調整する原理である。苦土石灰の分解速度は土壌pHと土壌水分に大きく影響される。概して、土壌pHが低いほど、土壌水分が多いほど苦土石灰の分解が速くなる。また、粉の粒度が細かいほど分解も速くなる。
苦土石灰が施用後、土壌pHをゆっくり上昇させ、鉄とアルミニウムの溶出が減り、すでに土壌溶液中に存在している活性鉄と活性アルミニウムイオンが沈殿し、有害度が大きく減少する。また、土壌有機物の分解時に発生する有機酸も中和され、有機物の分解にも役立つ。ただし、苦土石灰の酸性中和作用が非常に緩慢で、急な土壌酸度の矯正には向かない。
苦土石灰が水素イオンと反応して、分解した後にカルシウムとマグネシウムが土壌塩基として残され、土壌塩基飽和度と交換性塩基バランスの改善に役立つ。
苦土石灰は施用後、土壌中の反応が非常に緩慢で、副作用のない緩効性土壌pH調整材である。
4.施用上の注意事項
苦土石灰は酸性土壌の中和作用が非常に緩慢であるため、その施用には下記の注意事項がある。
- 早めに施用する
非常に緩効の土壌pH調整材であるので、早めの施用に越したことがない。緊急を要する土壌酸度の矯正には苦土石灰ではなく、消石灰など速効性の土壌pH調整材を使う。 - 均一に施用する
局部土壌の未施用または過施用を防ぐため、基肥の場合は全層施肥、追肥の場合は全面施肥または側条表面施肥にする。全層施肥とは肥料を田んぼや畑に施用してから耕うんして作土層に全面混入するという施肥方法である。全層施肥により土壌との混合がよく、土壌酸性の中和効果が高い。全面表層施肥と側条表面施肥は肥料を耕地の表面に撒いただけでの施肥方法であるが、次の耕作時に耕うんにより作土層に全面混入することになる。 - むやみに多量施用を避ける
土壌診断を行って、土壌酸性を中和するための必要な適量を算出して施用する。非常に緩効性のある肥料で、1回施用では1~数年間土壌酸度矯正の効果が持続する。