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けい酸加里

けい酸加里はけい酸のカリウム化合物で、水には不溶であるが、作物の根から出す根酸や土壌中の有機酸などに溶け、作物に吸収利用されるいわゆるく溶性加里肥料である。従来型の加里肥料(塩化加里、硫酸加里など)は水溶性で、灌漑や降雨により河川や地下水への流失が多いが、けい酸加里はく溶性であるため、肥料成分の流失が少なく、肥効が長く、基肥として1作に1回の施肥だけで済み、栽培コストの削減と環境保護に相応しい唯一の緩効性加里肥料である。

けい酸加里は本邦が開発したもので、その生産は本邦の開発肥料1社と中国メーカー数社に限られている。なお、中国メーカーが作ったものもほとんど本邦に輸出されるので、実際にけい酸加里肥料を使用するのは本邦だけである。

 

1.成分と性質

けい酸加里は微粉炭燃焼灰と水酸化カリウムまたは炭酸カリウムを主原料として、ドロマイトや石灰石も加えて、900℃以上に加熱し高温溶融反応で作った数種類のケイ酸化合物の固溶体である。分析によると、けい酸加里にはK2OAl2O3K2OAl2O32SiO2K2OCaOSiO23CaOMgO2SiO2などが入っている。微粉炭の産地と配合されるドロマイトや石灰石の量により、これらのけい酸化合物の比率が若干変動する。すなわち、加里とけい酸、苦土のほか、石灰、鉄、ホウ素なども含まれるユニークな肥料である。また、けい酸加里を組成するこれらのけい酸化合物のうち、一部のK2OAl2O3が弱い水溶性を有するが、ほかの化合物はすべてく溶性である。

本邦の開発肥料が生産しているけい酸加里肥料は1銘柄だけで、く溶性加里20%、可溶性けい酸34%、く溶性苦土4%以上を保証する粒状のものである。中国メーカーが生産するケイ酸加里はく溶性加里2021%、可溶性けい酸2634%、く溶性苦土4%の粒状品である。ケイ酸加里は水にほとんど溶けず、pH2.1のクエン酸液に溶ける。吸湿性がなく、熱安定性が非常に高く、800℃まで加熱しても分解しない。常温下の化学反応性がほとんどなく、非常に安定している。

けい酸加里は水にほとんど溶けないため、化学的中性肥料に属するが、施用後、加里と一部の苦土やけい酸が作物の養分として吸収されたが、多くの石灰分と苦土が残留され、土壌をアルカリ性に傾ける。したがって、生理的アルカリ性肥料に分類される。

 

2.用途

けい酸加里はく溶性のもので、溶解性が低く、作物根から放出された根酸により分解され、カリウムイオンが遊離して根に吸収される。従って、塩化加里や硫酸加里と異なり、緩効性の加里肥料である。追肥に適さず、もっぱら基肥として使用される。

また、加里以外に石灰、苦土、けい酸、鉄、マンガン、亜鉛等の中量と微量元素が豊富に含まれ、アルカリ性肥料でもあり、土壌に中量と微量元素を補給するほか、土壌pH調整と改良材としても役立つ。特に可溶性けい酸が多く含まれ、水稲などけい酸嗜好性作物の基肥に向いている。

水に不溶で、粒状でもあり、作物根との接触面積が少ないので、肥効の発現が非常に遅い。その緩効性を有効に利用するには、速効性の塩化加里や硫酸加里、または化成肥料と混合して施用する。なお、養分利用率を高めるには、施用後土とよく混ぜて、作物根系との接触を増加する必要がある。

けい酸加里は化学的中性であるうえ、反応性が乏しく、尿素、硫安、塩安などを混合してもアルカリ反応によるアンモニアの揮散が発生しない。また、過りん酸石灰や重過りん酸石灰、りん安(MAPDAP)などを混合してもりん酸の難溶化が起こらず、BB配合肥料の原料としても適している。

ただし、けい酸加里は高価であるうえ、加里含有量が低く、塩化加里や硫酸加里に比べ、そのコストパフォーマンスが劣るため、普及の障害となっている。

 

3.施用後土壌中の挙動

けい酸加里は施用後、土壌溶液に溶けず、土壌ECと浸透圧を上昇させることがなく、濃度障害を起こす恐れがない。また、含まれている加里、苦土とけい酸はイオン化することがなく、化学反応性も乏しく、灌漑や降雨による流失が非常に少ないので、長く土壌に存在する。

けい酸加里に含まれている加里と苦土、けい酸はく溶性であるため、根から分泌された根酸のような弱い酸に溶けて、根に吸収される。従って、作物根に直接に接触していないと、肥料効果が発現しない。また、土壌中のカルシウムやマグネシウムとの間の吸収拮抗が少ない。

施用後、く溶性加里と苦土が作物に吸収され、一部の石灰、苦土とけい酸が土壌に残留される。長期施用しても土壌を酸性化させる恐れがない。逆に、石灰と苦土は土壌塩基として残され、土壌塩基飽和度と交換性塩基バランスの改善に役立つ。また、土壌pHをアルカリ性に傾ける作用があり、土壌改良資材としての効用もある。

けい酸加里の肥効発現は非常に遅いが、肥効持続期間は相当長い。一回施用すれば、肥効が1年以上に継続する。

 

4.施用上の注意事項

けい酸加里は可溶性けい酸を有する緩効性の加里肥料として、特に水稲用肥料として一部の地域に歓迎される。単独施用もBB配合肥料として施用する場合も注意事項が同じである。

  1. 追肥にせず、基肥として使う
    けい酸加里は水に溶けず、作物根に接触しないと吸収利用されないので、追肥としての効果がほとんど期待できない。肥効持続期間が長いので、基肥に適している。
  2. 全層施肥又は側条深層施肥か下層施肥にする
    けい酸加里は作物根との接触を増加するため、全層施肥、側条深層施肥か下層施肥にすべきである。全層施肥とは肥料を田んぼや畑に施用してから耕うんして作土層に全面混入するという施肥方法である。側条深層施肥とは肥料を作土の表層に出ないように作物条の近くに溝を掘って、肥料を溝に施用してから覆土する施肥方法である。下層施肥とは作土にやや深い穴または溝を掘り、肥料を施用してから薄く覆土してその上に播種や定植する方法である。
  3. 水溶性加里と合わせて施用する
    肥効の出現が非常に遅いので、作物の初期成長に加里養分の供給不足に陥る恐れがある。単独使用の場合は養分利用率を高めるために塩化加里や硫酸加里、または水溶性加里を有する化成肥料と合わせて施用する。