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鶏糞燃焼灰

鶏糞燃焼灰とは、鶏糞を燃やした後の灰である。本邦では元来養鶏は農家の副業で、鶏糞は昔から農家の自給肥料として使われてきた。1960年代から養鶏は大規模養殖業として発達して、2018年の統計データでは年間の鶏糞排出量が1300万トン(採卵鶏800万トン、ブロイラー500万トン)と推定される。鶏糞処理の解決策の一つとして、鶏糞を燃やして、無機化させ、減量減容したうえ、その灰を肥料として農作物の栽培に使うようになった。

鶏糞燃焼灰は次の特徴がある。

① 完全に無機化されているので、鶏糞の臭気成分、鶏糞中の抗生物質などが完全に分解され、発酵鶏糞で心配される発酵未熟のようなことがない。

② 高濃度のりん酸と加里を含有し、産出が安定しているので、国産の肥料資源として魅力である。

③ 強アルカリ性物質で、土壌pH調整の効果がある。ただし、種子の発芽や初期生長が阻害される恐れがある。

 

1.成分と性質

ほかの家畜糞に比べ、鶏糞は水分が少なく、特にブロイラーの糞は水分が40%台しかなく、一部の飼料残渣と敷材も混ざって、簡単に燃やすことができる。800℃で燃やした後、鶏糞重量の約10%相当する灰が残った。

鶏糞燃焼灰は無臭灰白色の粉末であるが、低い温度で燃やした場合は未完全燃焼の炭素が残っているため、黒い粒状のものが多く混ざっている。燃焼温度によりその外観が大きく変わる。概して、燃焼温度が高いほど回収される鶏糞燃焼灰の量が少なく、黒い塊状物が減る。

鶏糞燃焼灰はpH1113の強アルカリ性で、りん酸含有量1425%、加里1020%で、バラツキが大きい。鶏糞燃焼灰の養分含有量が養殖タイプと燃焼温度により大きく変わる。概して、ブロイラー糞の燃焼灰はりん酸と加里含有量が高く、石灰が低いが、採卵鶏がその逆である。一方、燃焼温度が高いほどりん酸含有量が高くなり、加里含有量が低くなる。これは高温により一部の加里が揮発してしまうことが原因である。なお、鶏糞中の窒素は高温により窒素ガスとなってしまうので、燃焼灰にはほとんど残されていない。

鶏糞燃焼灰に含まれているりん酸、石灰、苦土はほとんどク溶性のもので、加里だけが水溶性である。

肥料登録上、鶏糞燃焼灰は化成肥料の分野に属する。

鶏糞中の養分を最大限に残すため、低温炭化という処理方法もある。得た燃焼灰は黒い粒状のもので、有機炭素が多く残された。ただし、減量減容が不十分で、りん酸と加里の含有量が低く、臭いも若干残されて、単独施用しかないため、歓迎度が低く、産出量が少ない。

 

2.用途

鶏糞燃焼灰はりん酸と加里の含有量が高く、ほかに石灰、苦土と微量元素も豊富に含まれ、アルカリ性肥料でもあり、土壌に養分を補給するほか、土壌pH調整と改良材としても役立つ。

鶏糞燃焼灰は単独施用の場合はPK化成肥料という形で基肥と追肥の両方とも使える。ただし、強アルカリ性で、直接施用の場合は種子の発芽や初期生長が阻害される恐れがある。通常、硫酸などの無機酸を使って、鶏糞燃焼灰のアルカリ性を中和してからりん酸と加里を有する原料として化成肥料の製造に使う場合が多い。

鶏糞燃焼灰に含まれている養分がすべて無機態のもので、ほかの有機肥料のように土壌物理性(通気性や保水性)と土壌生物性(生物相と微生物増殖など)の改善効果が全く期待できない。

3.施用後土壌中の挙動

鶏糞燃焼灰に含まれている養分はすべて無機態のものである。その分解と放出が土壌微生物の働きに全く依存せず、その性質と肥効が化学肥料に近い。

りん酸養分がほとんどく溶性のものである。直接施用の場合は、施用後水に溶けず、作物根から放出された根酸により分解され、りん酸イオンが遊離して根に吸収される。従って、速効性がないが、土壌のりん酸固定の影響を受けない。ただし、事前に硫酸などの無機酸で中和処理される場合は、特に化成肥料の原料として中和処理を受け場合は養分の大半が水溶性に変化する。水溶性養分は施用後に普通の化成肥料の養分と同じ水に溶けて養分を溶出して、土壌に拡散するが、く溶性養分は水に溶けず、緩効性養分としてゆっくり肥料効果を発揮する。

加里養分は水溶性のもので、水に溶けてカリウムイオンが放出され、作物に吸収される。余ったカリウムイオンは土壌コロイドによく吸着されるので、土壌中の移動がほとんどない。

石灰成分と苦土成分もク溶性のもので、施用後、ほかのマイナスイオンと結合して難溶性化合物を生成することが少なく、ゆっくり土壌pHをアルカリ性にする能力があり、土壌pH調整と石灰、苦土養分の補給に役立つ。

鶏糞燃焼灰は単独で畑に多量施用する場合は、その強アルカリ性により種子の発芽や苗の初期生長が阻害される恐れがある。また、生長中の植株に接触すると肥料焼けが発生する可能性がある。単独施用の場合でも事前に硫酸などの無機酸でpH67まで中和してから施用することを勧める。

通常の有機肥料では粗大有機物が土壌通気性と保水性の向上に寄与して、土壌微生物に分解されなかった有機質が腐植となり、土壌団粒形成の促進に寄与するが、鶏糞燃焼灰は有機物を含んでおらず、土壌物理性(通気性や保水性、団粒構造の形成)と生物性の改善効果が期待できない。ただし、燃焼温度の低い炭化鶏糞は有機炭素が多く残され、土壌物理性と生物性の改善効果が期待できる。

 

4.施用上の注意事項

鶏糞燃焼灰は有害物質が少なく、養分含有量が比較的に高く、速効性と緩効性もあり、上手に使いこなせば良い肥料である。その使用には下記の注意事項がある。

  1. 中和してから使う
    鶏糞燃焼灰は強アルカリ性で、そのまま施用しては種子の発芽や苗の初期生長を阻害する恐れがある。硫酸などで中和してから施用することを勧める。但し、それを原料にして生産された化成肥料は、生産工程ですでに中和されたので、問題が起きない。
  2. 過剰施用をしない
    鶏糞燃焼灰は養分含有量が比較的高く、過剰施用の場合は濃度障害が発生する恐れがある。
  3. 窒素肥料との併用
    鶏糞燃焼灰は窒素成分がないので、肥効を高めるために窒素肥料と併用することを勧める。一番良いのは化成肥料の原料として窒素成分を追加し、粒状化してから施用する。
  4. 石灰過剰に注意
    鶏糞燃焼灰は高濃度の石灰成分を含んでいるので、長期多量施用すると、土壌には石灰成分が溜まり、ほかの養分の溶解性と吸収性に影響を及ぼす。多く施用する場合は石灰質肥料の施用を減らす必要がある。