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腐植酸

腐植物質とは土壌中の動植物、微生物の遺体が分解変化して形成された黒い色の有機性物質の総称である。

土に入った植物残渣や微生物遺体は、その中の炭水化物やタンパク質が微生物によって分解され、その分解産物から化学的・生物的に再合成されてキノイド性物質とかアミノ酸・タンパク質が縮合して初生腐植物質を形成する。分解しにくいリグニン様物質やリグニンも分解の後期段階で微生物によって低分子のキノン系物質やポリフェノール等に分解され、これらはやはり縮合して初生腐植物質を形成する。生成されたこれらの初生腐植物質は、土壌中で無機成分の触媒的な作用を受けて酸化的重合を起こし、さらに重合度の高い真正腐植物質に変化する。

腐植物質は酸とアルカリの水溶液に対する溶解性の違いからアルカリ溶液にも酸溶液にも溶ける「フルボ酸」、アルカリ溶液に溶けるが酸溶液には溶けない「フミン酸」、アルカリ溶液にも酸溶液にも溶けない「ヒューミン」に分けられる。

フミン酸(Humic acid)は、アルカリ溶液に可溶で、酸溶液で沈殿する赤褐色ないし黒褐色を呈する、糖や炭水化物、タンパク質、脂質などに分類されない有機物画分のことを指す。化学構造がとても複雑で、具体的には芳香族(ベンゼン)環などをたくさん持つ酸性の複素芳香環無定形高分子有機物の集まりである。弱酸性を示すのはカルボキシル基(-COOH)やフェノール性ヒドロキシ基(−OH)を主体とする多塩基性の高分子有機酸群を含むためである。土壌腐植物質の中にフミン酸が一番多い。通常、腐植酸と呼ばれる物質はフミン酸を指す。

フルボ酸(Fulvic acid)は、アルカリ溶液と酸溶液ともに可溶で、黄色を呈する有機物画分のことを指す。フルボ酸はフミン酸同様に無定形高分子化合物の集まりであるが、その分子量がフミン酸より小さく、カルボキシル基、アルコール性ヒドロキシ基を多く含んだ鎖状と環状多価有機酸の混合物である。土壌だけではなく、天然水中にも広く分布している。

 ヒューミン(Humin)は、アルカリにも酸にも溶けない黒褐色または暗黒色を呈する有機物画分のことを指す。主に活性官能基が乏しい難分解性の巨大高分子物質から構成されるものである。

土壌中に腐植酸は主に粘土粒子同士をくっつけて団粒の形成に役立つほか、活性官能基が陽イオンと結合して、保持する役割がある。腐植酸が多く含まれる土壌は CEC(陽イオン交換容量)が高く、りん酸、加里、カルシウム、苦土などの肥料効果を長く持続させる。従って腐植物質が多く存在するほど地力が高くなる。

本邦の土壌は、腐植物質は15%を含んでいる。大概排水が悪く、粘土質の多い土壌では腐植物質が多くなる傾向がある。なお、土壌中の腐植物質の理想値は5%と言われている。

土壌中の腐植物質を補充する手段として、収穫後のワラなどを残したり、緑肥作物を栽培したりして、土壌にできるだけ多くの植物残渣を残すほか、堆肥など有機肥料の多量施用もあるが、一番簡便な方法は腐植酸を直接に施用することである。本邦の地力増進法により有機物の含有量が20%以上の腐植酸質の資材は土壌改良資材として販売・使用されることが認められる。

腐植酸は、化学処理の有無により、天然腐植酸とニトロ腐植酸に分けられている。

 

1.天然腐植酸

天然腐植酸は褐炭、泥炭など腐植物質含有量が20%以上の原料を粉砕して得たものである。天然腐植酸はそのまま土壌改良資材として使用できるほか、ニトロ腐植酸の原料にも なる。

腐植物質は土壌に存在しているが、その含有量が数%以下で低く、集めて利用すること に無理がある。一方、褐炭、泥炭など炭化度の低い若い石炭には腐植物質の含有量が多く、 特に地面に露出または近接している褐炭が空気、太陽光、雨雪等の作用を受けて風化し、ゆっくり酸化してできた風化炭(ほや炭)には腐植物質が2090%もある。従って、天然腐植酸は主に風化炭をそのまま粉砕したものである。なお、風化炭に含まれている腐植物質(有機物)と腐植酸の含有量との関係は、大体10.750.80である。すなわち、腐植物質の約7580%が腐植酸である。

 

2.ニトロ腐植酸

ニトロ腐植酸は天然腐植酸を原料にして、硝酸で処理して得たものである。本邦では土 壌改良資材として使用するほか、腐植酸苦土、腐植酸アンモニア、腐植酸りん肥などすべての腐植酸肥料の原料にもなる。

硝酸は強酸化剤で、加熱される時に原子態の活性酸素を放出し、強い酸化力を有する。天然腐植酸と混合して、加熱すれば、放出された活性酸素が腐植物質中のアルカリにも酸にも溶けないヒューミンの高分子環状不飽和有機化合物(芳香族化合物)の結合を切断して、フミン酸に転化させる。また、フミン酸のカルボキシル基、ヒドロキシ基などの活性官能基を増やすほか、ニトロ基(−NO2)を導入して、化学活性を高める。従って、天然腐植酸に比べ、硝酸で処理したニトロ腐植酸は腐植酸含有量が約1015%増えるほか、窒素含有量が1%以上も高くなる。

 

3.成分と性質

天然腐植酸は原料褐炭または風化炭の腐植物質の含有量が高いほど、製品の品質が良くなる。また、原料の腐植物質含有量が高いほど、硬度が低くなり、粉砕しやすく、生産効率が高い。

当社が販売している天然腐植酸は無臭の黒い粉末または造粒された24mmの球状黒色粒子で、腐植酸含有量5355%、水に難溶、アルカリ性溶液に可溶、水への溶解度が<0.05g/100ml。水溶液がpH4.56の弱酸性を呈する。

当社が販売しているニトロ腐植酸は無臭の黒褐色粉末または造粒された24mmの球状黒褐色粒子で、腐植酸含有量6065%、水に難溶、アルカリ性溶液に可溶、水への溶解度が0.11g/100ml。水溶液がpH3前後の強酸性を示す。

 

4.用途

農業分野に腐植酸は土壌改良材として、下記の役割を果たす。

  1. 土壌団粒の形成を促進する。 腐植酸は有機高分子のコロイド状物質であるため、接着剤の役割を果たし、粘土粒子同士を接着して耐水性団粒を形成する。土壌の団粒構造は通気性と保水性、透水性を良くし、植物根系の発育伸長を促進する。
  2. 腐植酸の官能基がマイナス帯電して、カリウムイオン、カルシウムイオンなど金属イオ ンのほか、アンモニアイオンなどプラス帯電の陽イオンと結合して、保持する役割がある。 腐植酸の多く含まれる土壌は CEC(陽イオン交換容量)が高く、りん酸、加里、カルシウ ム、苦土などの肥料効果を長く持続させる。また、腐植酸が土壌アルミニウム、重金属や放射性物質など有害物質を吸着保持して、作物への悪影響を軽減する。
  3. 土壌微生物は腐植酸を棲み処とエサとして利用し、増殖して土壌の物理性・化学性の改善に寄与する。また、微生物の分解作用により腐植酸の一部が無機化して窒素、りん酸などの養分を供給するほか、微生物の働きで土壌に固定されて吸収しづらい養分の有効化を通じて、 植物の養分吸収を改善する。
  4. 腐植酸が黒色で、太陽の熱線を多く吸収して、地温を上げる効果がある。
    腐植酸はそのまま土壌に施用するほか、化成肥料の増量材として造粒の際に添加することもできる。

 

5.施用後土壌中の挙動

腐植酸は施用後、土壌水分を吸収して膨潤・分散して、有機コロイド粒子となって、周辺にある土壌粒子を凝集させ、耐水性団粒を形成する。一部の腐植酸は微生物の棲み処と餌となり、ゆっくり無機化して、微生物の増殖を促進する。

通常、天然腐植酸はフミン酸のほか、難分解性のヒューミンも含んでいるため、施用後、土壌微生物に完全に分解されるまでに数年~10数年かかる。

ニトロ腐植酸は硝酸処理によりヒューミンの一部高分子環状不飽和有機化合物が切断されることもあり、完全分解するにかかる時間が天然腐植酸より若干短くなる。

 

6.施用上の注意事項

腐植酸は土壌改良材として、その施用には下記の注意事項がある。

  1. 早めに施用する
    土壌団粒構造の形成、CEC(陽イオン交換容量)の増大など土壌改良効果を高めるために基肥の前か同時に施用することを勧めたい。
  2. 施用方法に工夫する
    腐植酸は土壌改良材の中に価格が高いもので、単位面積の施用量が少ない。その効果を発揮するために作物根圏に集中的に施用するように工夫する必要がある。側条施用や下層施用が適する。
  3. 長期継続施用
    腐植酸は有機物であるので、土壌微生物にゆっくり分解され、次第に消えてしまう。土壌改良効果を持続させるために年1回程度で長期継続施用することが大事である。