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ホウ酸

ホウ素は植物生育に必要な微量元素の一つである。ホウ素は細胞壁生成に重要な役割を有し、細胞膜や通導組織の形成維持に役立つ。また、りんと似ており、糖などの有機物の水酸基とエステル結合を作ることにより、糖やカルシウムの吸収、転流、代謝に関係する。

ホウ素が不足すると、生長点や若葉に黄化や白色化が見られ、極端な場合は生長点の枯死と葉の生長が停止する。また、根の伸長が阻害され、根が太く短く、細根の発生が減少する。大根やサツマイモは地下部の塊茎、塊根、球根などは先端部が黒褐色化した枯死する症状が発生することもある。

ホウ素が過剰になると、下位葉の葉縁が枯れ、葉縁部が内側に巻き込むいわゆる落下傘葉となる。症状が進行すると、葉脈間に黒褐色の壊死斑が発生し、枯れる。作物の生育が遅れる。なお、ホウ素の適量濃度範囲が狭いので、過剰障害が発生しやすい。

植物生育に必要なホウ素量は微量であるため、土壌中に0.51.0ppmの有効態ホウ素があれば問題ないと言われる。通常の土壌では、ホウ素欠乏症が出にくいが、アルカリ性環境(土壌pHが高い場合)ではホウ素が難溶化となり、吸収が阻害され、欠乏症が発生することがある。ホウ素欠乏症が発生した場合は、綿と大豆の開花数減少、小麦や豆の不稔、白菜と大根、カブ等アブラナ科野菜のさめ肌と心褐変腐れ等がよく見られる。この場合は、ホウ素肥料の施用が有効である。なお、養液栽培の場合にはホウ素の添加が必須である。

ホウ素肥料はホウ酸がよく使われる。他にホウ砂や熔成ホウ素肥料、加工ホウ素肥料もあるが、販売と使用量が非常に少ないため、割愛する。以下はホウ酸だけを紹介する。

 

1.成分と性質

ホウ酸(Boric acid)はホウ素のオキソ酸である。無臭の無色結晶または白い結晶状粉末で、化学式H3BO3、水に可溶、その溶解度が温度の影響を強く受け、100℃では37.9g/100ml、25℃では5.7g/100mlである。水溶液のpH4.8~5.3、弱酸性を呈し、ほとんど無味あるいはわずかな酸味がある。純粋のホウ酸のホウ素含有量17.4%(B2O3換算56.3%)である。市販のホウ酸は大体ホウ酸(B2O3)含有量54~55.5%である。なお、天然のホウ酸鉱物もあり、温泉や火山地域から産出されるサッソライト(Sassolite、ホウ酸石)という鉱物である。

ホウ酸の水溶液が弱酸性を呈するので、化学的酸性肥料に属する。ホウ酸は施用後、ホウ素が作物の養分として吸収された後、ほかの成分が残されず、土壌を酸性化またはアルカリ性化にすることがなく、生理的中性肥料に分類される。

 

2.用途

工業分野ではホウ酸がガラスやセラミックの熔融剤、眼科薬、原子炉の中性子吸収材、木材の難燃剤と防腐剤などとして使われている。ホウ酸の毒性が強いため、ゴキブリやアリなどの駆除薬品とも使われている。

農業分野ではホウ酸は速効性のホウ素肥料で、微量元素のホウ素供給源として使われている。主な施用方法は葉面散布と種肥である。単独施用では葉面散布に使うことが多い。ただし、作物にとってホウ素はその適量範囲が狭く、過剰障害を起こしやすい微量元素であるため、ホウ酸の水溶液を葉面散布に使う場合は、ホウ素過剰障害が発生しやすい。種肥とする場合はホウ酸を溶かしてから浸種しまたは種子や苗の根につける形で使用する。養液栽培肥料にはホウ素の養分源として添加する。

化成肥料には原料として添加することがあるが、BB配合肥料に添加することが少ない。その理由はBB配合肥料に使用される場合は、ホウ酸粒子が局部土壌に集中して、過剰症状を引き起こす恐れがある。

3.施用後土壌中の挙動

ホウ酸が施用後、土壌溶液にゆっくり溶けて、B(OH)4B3O3(OH)4B4O5(OH)42など数種類のホウ酸イオンを放出する。これらのホウ酸イオンがすべて陰イオンで、土壌コロイドに吸着されず、土壌溶液の動きに伴い拡散する。したがって、土壌中の移動範囲が割と広い。

ホウ酸は速効性の肥料であるため、葉面散布ではその肥効は施用後23日に現れる。また、作物生育に必要なホウ素の量が僅かで、葉面散布にしても種肥にしてもその肥効持続期間は長く、11回施用すればよい。

ホウ酸が溶解後に生成したホウ素イオンは、大きく過剰する場合は作物の生育を阻害して、過剰障害を誘発する。過剰障害が起きない程度の過剰でも硝酸態窒素、カリウム、カルシウムなどと拮抗して、これらの元素の吸収を妨げる恐れがある。施用時に所定の濃度と用量を守る。

4.施用上の注意事項

ホウ酸は施用時に下記の注意事項がある。

  1. むやみの施用をしない
    アルカリ性土壌を除き、通常の土壌では、作物ホウ素欠乏症の発生は稀である。予防の観点で施用することは避けてほしい。
  2. 過剰施用を避ける
    ホウ素の適量濃度範囲が狭いので、過剰障害が発生しやすい。施用時に必ず所定の濃度と用量を守る。