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塩安

塩安(塩化アンモニウム)は塩素とアンモニアの化合物で、2526%の窒素を含有し、窒素肥料として使われている。肥料用塩安はすべて食塩を原料にしてソーダを製造する際に出た副産物である。本邦では2010年代半ばから塩安の生産を止めて、現在販売されている塩安はすべて輸入品である。

 

1.成分と性質

塩安の化学構造はNH4Cl、純粋の塩安は窒素含有量26.1%、無臭、無色透明の結晶または白い粉末、水に良く溶け、溶解度37.2g/100mlである。水溶液は中性か微酸性で、辛味を帯びる苦い味をする。高い吸湿性があるが、吸湿による固結が発生してもできた塊が脆く、簡単に破砕できる。肥料用塩安はソーダ工業の副産物であるが、異物がほとんどなく、純度の高いものがほとんどである。なお、本邦の肥料登録基準は塩安の窒素含有量25%以上が必要である。

塩安は窒素のほか、66.2%の塩素を含有し、塩素含有量が食塩よりも高い。

 

2.用途

塩安に含まれている窒素はアンモニア態窒素である。溶解性が高いので、速効性の窒素肥料に属する。塩安のアンモニア態窒素は土壌コロイドによく吸着され、流失が少ないので、基肥、追肥として畑や水田に使われ、汎用性のある窒素肥料である。但し、塩安は単独使用の場合が稀で、ほとんど化成肥料の原料として使われる。また、塩安の粉末を圧力で成形させた粒状品(ブリケット品)もあり、BB配合肥料の原料として使われている。

塩安は高濃度の塩素を含んで、この塩素が土壌の理化学性質と作物の栄養生理に大きな影響を与え、ほかの窒素肥料と違い、使用上に一定の制限がある。特に塩素感受性の作物(タバコ、ジャガイモやサツマイモ、モモ、ブドウ、スイカなど)には使用しないように注意すべきである。

塩素の弊害を避けるため、塩安はコメ、小麦、綿や麻など耐塩素性植物や塩素嗜好性植物に使うべきである。特に水稲の栽培では冠水期が長いので、アンモニアの硝化が抑えられ、余分の塩素も灌漑水により流されやすく、土壌に蓄積しないため、硫酸根の残る硫安より塩安の肥効が高く、秋落ち現象を防ぐことができる。

 

3.施用後土壌中の挙動

塩安が水に溶けてイオン化しやすい性質を有する。溶解により放出されたアンモニウムイオンは陽イオンで、土壌コロイドによく吸着されるので、土壌中の移動がほとんどない。大体土壌微生物により硝酸態窒素に転換されてから移動する。但し、生成した塩素イオンが土壌に吸着しないので、容易に水と一緒に移動する。

また、溶解後にイオン化されたアンモニアと塩素は土壌中にほかの物質と結合して難溶性化合物を生成することがなく、施用後ほかの窒素肥料より土壌ECと浸透圧を速く上昇させる。灌漑設備のない畑では塩素が土壌中に蓄積し、土壌水分ポテンシャルが高くなり、植物根系の養水分の吸収を阻害するいわゆる土壌塩害を引き起すこともある。従って、畑に多量施用する場合は、塩安がもたらす濃度障害により、種子の発芽や初期生長が阻害される恐れがある。また、生育期の植株にも肥料焼けが発生する可能性がある。

塩安が施用後、放出したアンモニア態窒素は土壌微生物の硝化作用により硝酸態窒素に変化する。硝化作用の速度は土壌種類、土壌通気性、土壌水分、土壌温度に制御される。概して、土壌有機物の少ない通気性の良い砂質土壌が速く、土壌温度が高いほど速い傾向がある。通気性の悪い重粘土質土壌は土壌水分が多く、嫌気的な環境になりやすく、アンモニウムイオンが長く土壌に存在する。但し、硫安に比べ、塩安は高濃度の塩素が硝化作用に係わる微生物の活性を抑え、硝化速度が遅く、アンモニア態窒素として土壌における滞留期間が長くなる。

塩安の肥効は水稲など好アンモニア態窒素の作物では施用後2日に現れ、主に硝酸態窒素を吸収する畑作物などでは施用後46日が見られる。肥効持続期間は2040日で、土壌温度が低いほど長くなる。

施用後、塩安に含まれるアンモニウムイオンが植物に吸収された後、塩素イオンが土壌に残る。塩素イオンが土壌中ほかの成分と反応して難溶性化合物を形成することがないが、カルシウムイオンとマグネシウムイオンなどの塩基を引きずって一緒に流失し、土壌を酸性化させる。従って、塩安は生理的酸性肥料と分類される。なお、灌漑設備のない乾燥地域では、硫安に比べ、塩安の施用による土壌pHの低下がさらに速くて強い傾向がある。

 

4.施用上の注意事項

塩安が廉価の窒素肥料として幅広く使われている。単独施用が稀であるが、塩安を原料とする化成肥料またはBB配合肥料の施用には下記の注意事項がある。

  1. アルカリ性肥料と一緒に施用しない
    塩安はアルカリ性肥料と混ぜると、化学反応が起き、アンモニアを放出してガス化し、揮散する恐れがある。但し、施用後、塩安が溶けてからアルカリ性肥料を施用しては問題が起きない。
  2. 種肥にしない
    塩安は土壌ECと浸透圧を速く上昇させる性質があり、高濃度の塩素もあり、種子の発芽と初期生長を阻害する恐れがある。
  3. 表層施用を避け、全層か深層施肥にする
    塩安が溶けて生成したアンモニア態窒素が揮発することがある。特にアルカリ性土壌では、表層施用ではアンモニアの揮発損失が高くなる。また、湛水している水田の土壌表層に酸化層と還元層があり、その接触面にアンモニア態窒素の硝化作用と硝酸態窒素の脱窒が同時に発生するので、一部の窒素が脱窒により損失する可能性がある。通常、全層か深さ1015cmの耕作層の深層施用が薦められる。また、側条施肥の場合は、塩安による濃度障害を無くすため、施用量を抑える必要がある。
  4. 塩素感受性の作物に施用しない
    タバコ、ジャガイモやサツマイモのイモ類、モモ、ブドウ、スイカなどの塩素感受性作物は、多量塩安を施用した場合は、収量か品質又は味が悪くなり、商品価値が下がるので、絶対避けるべきである。
  5. 過剰施用しない
    塩安が多く施用すると、土壌ECと浸透圧を速く上昇させ、肥料焼けを引き起す可能性がある。
  6. 施用後灌漑する
    塩安の塩素イオンによる塩害を防ぐため、できれば施用後翌日か翌々日に一度灌漑して、不要の塩素イオンを流し取る。
  7. 海岸沿いや乾燥地域での施用を控える
    塩素による塩害を軽減するため、海に近く、海水の影響を受けやすい土地や塩素濃度の高い土地には塩安の多い肥料の使用を控える。同じように、降雨量の少ない、灌漑施設が整備されていない地域では土壌中の塩素蓄積を防ぐために塩安の使用を控える必要がある。
  8. 土壌酸性化に注意する
    塩安が生理的酸性肥料であるため、長期大量施用する場合は土壌が次第に酸性に傾ける。時々土壌pHを計測して、pH5.5以下に下がれば、消石灰や苦土石灰などアルカリ性資材を使い、適正な土壌pHを戻せるように調節する。