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腐植酸苦土

腐植酸苦土肥料はニトロ腐植酸に塩基性のマグネシウム鉱物または化学物質を加えたもので、苦土(マグネシウム)を含む肥料である。本邦の「肥料の品質の確保等に関する法律」では腐植酸苦土肥料はく溶性苦土3.0%、 水溶性苦土 1.0%、腐植酸 40%以上と規定され、土壌改良効果のある苦土養分肥料として使用されている。

腐植酸苦土は風化炭などの腐植酸原料を硝酸または硫酸と硝酸の混酸で処理した後、アルカリ性の軽焼マグネシウム等を添加して、腐植酸のカルボキシル基、ヒドロキシ基、ニトロ基と中和反応してできたものである。

一昔は塩基性マグネシウム鉱物として蛇紋岩を使うところが多かったが、蛇紋岩がアスベストを含んでいる疑いがあり、現在ほとんど軽焼マグネシウム(軽焼マグ)を使う。水溶性苦土の含有量を上げるには硫酸マグネシウムを少量添加するところもある。

 

1.成分と性質

腐植酸苦土は造粒された黒色の粒状品で、苦土含有量はく溶性苦土3.0%、水溶性苦土1.0%のものとく溶性苦土10.0%、水溶性苦土3.0%のものの2種類がある。腐植酸は肥料養分ではないため、保証値の規定がないが、大体く溶性苦土3.0%、水溶性苦土1.0%のものは50%以上の腐植酸、く溶性苦土10.0%、水溶性苦土3.0%のものは40%以上の腐植酸を含有する。ほかに鉄、銅、亜鉛などの微量元素も含有する。

腐植酸を多く含有するため、水分が多く、約15%もある。水に僅かに溶け、アルカリ溶媒に溶ける。水溶液のpH3.57.0、腐植酸のニトロ化程度と添加する苦土の種類、含有量によってpHが大きく変動する。

吸湿性がなく、固結もしないが、粉化されやすく、長期保管中または強い外力を受けた場合は粒子が崩れて、一部粉化する恐れがある。

腐植酸を多く含んでいるため、化学性では酸性肥料に分類されるが、苦土が作物に吸収利用された後、腐植酸が土壌腐植として残され、土壌を酸性化させる恐れがないので、生理的中性肥料にも属する。

 

2.用途

腐植酸苦土はく溶性苦土と水溶性苦土を含んでいるため、土壌に施用した後、水溶性苦土が水に溶けて、マグネシウムイオンを放出して、作物に吸収される。また、く溶性苦土は作物根から放出された根酸により分解され、マグネシウムイオンが遊離して根に吸収される。従って、速効性と緩効性を共に有する苦土肥料としての効果がある。

しかし、腐植酸苦土の最大の用途は腐植酸による土壌改良効果である。

腐植酸苦土の腐植酸は有機高分子のコロイド状物質であるため、粘土粒子同士をくっつけて団粒の形成に役立つ。土壌の団粒構造は通気性と保水性、透水性を良くし、植物根系の発育伸長を促進する効果がある。

また、腐植酸の官能基がマイナス帯電して、カリウムイオン、カルシウムイオンなど金属イオンのほか、アンモニアイオンなどプラス帯電の陽イオンと結合して、保持する役割がある。土壌CEC(陽イオン交換容量)を高めて、りん酸、加里、カルシウム、マグネシウムなどの肥料効果を長く持続させるほか、土壌アルミニウム、重金属や放射性物質など有害物質を吸着保持して、作物への悪影響を軽減する効果もある。

腐植酸は土壌微生物のエサと棲み処としても利用される。増殖した土壌微生物が土壌の物理性・化学性・生物性の改善に寄与するほか、微生物の分解作用により腐植酸の一部が無機化して窒素などの養分を供給する役割もある。

反応性が乏しいので、ほかの肥料と混ぜて一緒に施用しても化学反応が生じず、ほかの肥料に含まれているアンモニアのガス化や水溶性りん酸の不溶化が起きない。また、過剰施用しても作物の生育への悪影響や拮抗作用によるほかの元素の吸収阻害がほとんど起きない。

腐植酸苦土は苦土と微量の窒素(約2%)および微量元素しかないので、単独施用では養分価値が低い。主にBB配合肥料の原料として使われる。単独施用の場合はほかの窒素、りん酸、加里肥料を合わせて施用することで全体の肥料効果が良くなる。

3.施用後土壌中の挙動

腐植酸苦土は施用後、土壌溶液に触れて粒子が崩壊し、水溶性苦土が溶けてマグネシウムイオンを放出して作物に利用される。く溶性苦土が根から出る根酸のような弱い酸に溶けて、根に吸収される。ただし、土壌有機物の分解過程で発生した有機酸にも溶けるので、根酸分泌量の少ない作物に吸収利用されることができる。

腐植酸は土壌水分を吸着して、コロイド状となり、粘土粒子同士をくっつけて団粒構造を形成する。また、土壌微生物のエサと棲み処として土壌微生物の増殖を促し、有機系土壌改良資材としての効用が高い。

また、微生物の分解作用により腐植酸の一部が無機化して窒素などの養分を供給するほか、微生物の働きで土壌に固定されて吸収しづらい難溶性りん酸などの養分を有効化して、 植物の養分吸収を改善する。

腐植酸苦土の肥効発現は遅いが、肥効持続期間は相当長い。基肥として年一回の施用で充分である。

 

4.施用上の注意事項

腐植酸苦土肥料の施用には下記の注意事項がある。

  1. 土壌改良に重点を置く
    腐植酸苦土は苦土のほか、少量の窒素(約2%)しか含まれていないので、養分としての効果が期待できない。ただし、高濃度の腐植酸があるので、高い土壌改良効果が期待できる。
  2. 基肥として施用する
    肥効発現は遅く、土壌改良効果があり、追肥としては不適で、基肥として施用する。
  3. 全層施肥又は下層施肥にする
    土壌改良の効果を高めるため、全層施肥又は下層施肥にすべきである。全層施肥とは腐植酸苦土を田んぼや畑に施用してから耕うんして作土層に全面混入するという施肥方法である。下層施肥とは作土層にやや深い穴または溝を掘り、肥料を施用してから薄く覆土してその上に播種や定植する方法である。
  4. 窒素、りん酸、加里と合わせて施用する
    腐植酸苦土は主に土壌改良と苦土養分の供給に限られ、少量の窒素を除き、りん酸、加里が全く含まれていないので、単独施用では肥料効果が発揮できず、窒素、りん酸、加里と混ぜて、BB配合肥料として施用したほうがよい。