肥料データベース
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軽焼マグ肥料
軽焼マグ(軽焼マグネシウム)は低い温度で焼成した酸化マグネシウムの呼び名である。ほとんどマグネサイト(Magnesite)鉱石を原料に 600~900℃で焼成したものである。ドロマイト(Dolomite)またはブルーサイト(Brucite)を原料に焼成するところもあるが、製品品質(主にMgO含有量と異物量)または原料コストがマグネサイトより劣るため、ヨーロッパの一部地域にしか生産しなかった。
マグネサイトは、菱苦土石(りょうくどせき)ともいう。方解石グループに属する炭酸塩鉱物の一種である。組成は炭酸マグネシウム(MgCO3)であるが、一部のマグネシウムは鉄、マンガンに代替され、FeCO3、MnCO3を形成することもある。マグネサイトはタルク、ドロマイト、石灰石、緑泥石と一緒に産出することが多い。マグネサイトを500℃以上に加熱すれば、二酸化炭素と酸化マグネシウムに分解し、二酸化炭素が揮発して、酸化マグネシウムが残る。その反応式は、
MgCO3 → MgO + CO2 ↑
マグネサイトの焼成温度は、生成した酸化マグネシウムの化学反応活性を強く影響する。 概して焼成温度が高いほど生成した酸化マグネシウムの反応活性が弱くなる。1200℃以上 の高温で焼成した酸化マグネシウムは反応活性がなくなり、化学的安定性が高く、酸やア ルカリには溶けないほか、耐湿性及び電気絶縁性に優れており、絶縁充填材や耐火煉瓦と して用いられている。このような化学反応活性を失った酸化マグネシウムは重焼マグネシ ウム(重焼マグ)とも呼ばれる。一方、600~900℃で焼成した酸化マグネシウムは、軽焼マグと呼ばれ、反応活性が高く、く溶性を有し、そのまま苦土肥料として使われるほか、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、水酸化マグネシウム等のマグネシウム化合物の原料にもなる。
1.成分と性質
軽焼マグ(MgO)は淡黄色~薄ピンク色の粉末であるが、原料のマグネサイトに鉄分が多いほど、ピンク色が濃くなる。臭いがなく、く溶性苦土70~90%もあり、窒素、りん酸、加里が全く含まれていない。
酸とアンモニア塩溶液に可溶、水には難溶、水への溶解度は0.0086g/100cm3しかないが、水に接触する場合はゆっくり水和反応が発生し、水酸化マグネシウムを生成する。水溶液のpH11、特異な薄い苦味と渋味をする。
空気中の水分と反応して水酸化マグネシウムに変化することがあり、長期保管には固結することがある。
アルカリ性を示すため、化学性ではアルカリ性肥料に分類される。施用後、土壌pHをアルカリ性にする作用があり、生理的アルカリ性肥料にも属する。
2.用途
軽焼マグは重要なマグネシウム材料で、工業分野では、建築材料、マグネシアセメント、脱硫剤の他、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、水酸化マグネシウムの原料として広く使われる。
農業分野では軽焼マグはその苦土成分がく溶性であるため、緩効性の苦土肥料として使われる。土壌に施用した後、く溶性苦土は作物根から放出された根酸により分解され、マグネシウムイオンが遊離して根に吸収される。また、アルカリ性肥料として、土壌酸性を調整する作用もある。
苦土含有量70~90%、水酸化マグネシウムより高く、値段も断然安いため、廉価の苦土系肥料として苦土養分の補給には適している。また、反応性が乏しく、ほかの肥料と混ぜて一緒に施用しても化学反応が生じず、ほかの肥料に含まれているアンモニアのガス化や水溶性りん酸の不溶化が起きないので、単独で施用することがほとんどなく、化成肥料および BB 配合肥料の苦土原料として使用される。
苦土成分がすべてく溶性なので、速効性がなく、追肥に適せず、基肥として施用する。
3.施用後土壌中の挙動
軽焼マグは施用後、強酸性土壌では苦土成分が土壌溶液にゆっくり溶けて、マグネシウムイオンが土壌コロイドに吸着され、塩基飽和度を上げる。同時に発生した水酸化物イオン(OH-)が土壌中の水素イオン(H+)と結合して、水(H2O)を生成するので、土壌酸性を矯正する。弱酸性~中性の土壌では苦土成分が根から出る根酸のような弱い酸に溶けて、根に吸収される。また、土壌有機物の分解過程で発生した有機酸にも溶けるので、根酸分泌量の少ない作物に吸収利用されることができる。
一方、軽焼マグは土壌を硬化させることがある。そのメカニズムは施用した軽焼マグは地中の水と反応して水酸化マグネシウムを生成する。生成した水酸化マグネシウムはゲル状であり、周辺の土粒子と結合して初期硬化を起こす。その後、水酸化マグネシウムは空気中の二酸化炭素と反応して炭酸マグネシウムに変化して、さらに強固な硬化物となる。また、軽焼マグは土の成分とのポゾラン反応によって安定な水和物を形成することもある。
軽焼マグの肥効発現は遅いが、肥効持続期間は相当長い。基肥として年一回の施用で充分である。
4.施用上の注意事項
軽焼マグの施用には下記の注意事項がある。
- 基肥として施用する
肥効発現は遅く、土壌pH調整の効果があり、追肥としては不適で、基肥として施用する。 - 全層施肥又は下層施肥にする
肥料効果を高めるため、作物根との接触を増やす必要がある。全層施肥又は下層施肥にすべきである。全層施肥とは肥料を田んぼや畑に施用してから耕うんして作土層に全面混入するという施肥方法である。下層施肥とは作土層にやや深い穴または溝を掘り、肥料を施用してから薄く覆土してその上に播種や定植する方法である。 - 窒素、りん酸、加里と合わせて施用する
軽焼マグは苦土養分しかなく、窒素、りん酸、加里の三大養分が全く含まれていない。単独施用では肥料効果が見えにくく、窒素、りん酸、加里と混ぜて、化成肥料にするかBB配合肥料にして施用する。 - 過剰施用をしない
軽焼マグは土壌pHを調整する効果があり、多量施用の場合に土壌pHを高めることができる。ただし、軽焼マグが土壌を硬化させる作用があり、不適な施用では土壌が固くなる可能性があるほか、過剰の苦土の存在は加里と石灰と拮抗して、作物の加里吸収を阻害することがある。