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りん酸一加里

りん酸一加里はりん酸二水素カリウム(potassium dihydrogenphosphateまたはmonopotassium phosphate、MKP)の略称で、カリウムのりん酸塩であり、食品工業等にはpH調整剤、食品添加物排水処理剤などとして使用される。また、農業分野では、塩素イオンと硫酸イオンを有しない完全水溶性のりん酸と加里の両成分を有する速効性肥料として養液栽培に大量に使用されている。

養液栽培肥料用りん酸一加里は完全水溶性で、りん酸48%、水溶性加里31%以上を有し、本邦の肥料種類区分には化成肥料に分類されるが、単一の化合物であるうえ、りん酸含有量が加里の1.5倍以上もあり、便宜上りん酸系肥料に帰属させて説明する。 

 

1.成分と性質

りん酸一加里の主成分はりん酸二水素カリウム(KH2PO4)である。純粋のりん酸二水素カリウムは無色無臭の正方晶体の結晶で、りん(P)含有量22.8%(りん酸(P2O5)換算では52.2%)、カリウム含有量28.7%(加里(K2O)換算では34.5%)、水によく溶け、溶解度が温度に依存して、水温が高いほど溶解度が高くなる。25℃時の溶解度22g/100ml、水溶液のpH4.4~4.6、弱酸性を呈し、苦味を伴う酸味である。吸湿性がやや高く、固結しやすい。融点252.6℃、400℃を超えると分解する。常温下の化学反応性が低く、安定している。

養液栽培肥料用りん酸一加里はりん酸(P2O5)含有量4851%、加里(K2O)含有量31~34%、白色の結晶性粉末である。異物としては少量のりん酸鉄、りん酸マグネシウム、りん酸ナトリウムなどが含まれている。水溶液のpH4.0~5.0、苦味を伴う酸味である。

肥料用りん酸一加里は食品用のものに比べ、りん酸と加里の含有量がやや低い。その理由は廉価の精製湿法りん酸を原料にして、製品中のりん酸鉄やりん酸マグネシウムの不純物含有量が若干多い。但し、鉄やマグネシウムは植物生育に必要な必須元素で、異物の存在で作物の生育が阻害されることがない。

りん酸一加里はその水溶液が弱酸性で、化学的酸性肥料に属する。施用後、りん酸と加里が作物の養分として吸収され、残留成分がなく、土壌を酸性化させることがない。したがって、生理的中性肥料に分類される。

2.用途

りん酸一加里は溶解後、りん酸イオンとカリウムイオンを放出して、作物に吸収される。速効性のりん酸と加里を有する肥料である。値段が割高で、畑や水田の肥料として直接施用することがほとんどない。主な用途は養液栽培用肥料である。

また、りん酸と加里が葉の細胞に直接に吸収されることができるので、葉面散布用肥料としても広く使われている。特に作物生理障害の予防、養分不足による生育不良の早期回復、収穫物の商品価値の向上にはりん酸一加里と尿素を混合した水溶液による葉面散布が非常に有効である。

 

3.施用後土壌中の挙動

りん酸一加里が水によく溶けて、放出したカリウムイオンは陽イオンで、土壌コロイドによく吸着されるので、土壌中の移動がほとんどない。同時に生成したりん酸イオンがカリウムイオンの存在により、土壌中の活性鉄イオンとアルミニウムイオンとの結合が抑制され、難溶性のりん酸鉄とりん酸アルミニウムを生成して沈殿することが遅くなる。

また、りん酸一加里が速効性肥料ではあるが、施用後の濃度障害が起こりにくく、種子の発芽や初期生長が阻害される恐れや肥料焼けが発生する可能性が割と少ない。

りん酸一加里の肥効発現は天候にほとんど影響されず、非常に早く、葉面散布では翌日、養液栽培肥料としては大体施用2日後に見られる。肥効の持続期間が不明である。

りん酸一加里は生理的中性肥料であるため、りん酸と加里養分が作物に吸収された後、残留成分がほとんどない。長期施用しても土壌を酸性化する恐れがない。

 

4.施用上の注意事項

りん酸一加里は高価の肥料として、主に養液栽培肥料と葉面散布肥料として使われている。施用には制限がほとんどないが、下記の事項に注意が必要である。

  1. 水溶性カルシウム肥料との混合に注意する
    りん酸イオンがカルシウムイオンと反応して、水和性第二りん酸カルシウムを生成し、沈殿する恐れがある。養液栽培肥料に使う場合は、硝酸カルシウムとの混合を避けるか、混合後すぐ施用する必要がある。
  2. 高濃度の施用をしない
    養液栽培または葉面散布に高濃度の過剰施用では、濃度障害で作物の水分吸収機能を阻害し、肥料焼けが発生する恐れがある。必ず処方通りに濃度と施用方法を守る。