肥料データベース
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りん酸一アンモニウム
りん酸一アンモニウムはりん酸二水素アンモニウム(Ammonium Dihydrogenphosphateまたはmonoammonium phosphate、MAP)の略称である。工業には試薬、微生物培養基剤、乳化剤、発酵助剤、酸性膨張剤、金属表面処理剤、アルミ箔表面処理剤、有機合成触媒、釉薬原料、難燃加工薬剤、消火薬剤原料、pH調整剤として広く使用される。また、農業分野では、塩素イオンと硫酸イオンを有しない完全水溶性のりん酸と窒素の両成分を有する完全水溶の速効性肥料として養液栽培に使用されている。
養液栽培肥料用りん酸一アンモニウムは完全水溶性で、りん酸59%以上、アンモニア態窒素11%以上を有し、本邦の肥料種類区分には化成肥料に分類されるが、単一の化合物であるうえ、りん酸含有量が窒素の5倍以上もあり、便宜上りん酸系肥料に帰属させて説明する。
1.成分と性質
主成分はりん酸二水素アンモニウム((NH4)H2PO4)である。純粋のりん酸二水素アンモニウムは無色無臭の正方晶体の結晶で、りん(P)含有量26.96%(りん酸(P2O5)換算では61.74%)、アンモニア態窒素含有量12.17%、水によく溶け、溶解度が温度に依存して、水温が高いほど溶解度が高くなる。20℃時の溶解度36g/100ml、水溶液のpH4.0~4.5、酸性を呈する。吸湿性が高く、固結しやすい。融点190℃、常温下の化学反応性が低く、安定している。
養液栽培肥料用りん酸一アンモニウムはりん酸(P2O5)含有量59~61%、窒素(N)含有量11~12%、白色の結晶性粉末である。異物としては微量のりん酸鉄、りん酸マグネシウム、りん酸ナトリウムなどが含まれている。水溶液のpH4.0~4.5、渋味を伴う酸味である。
りん酸一アンモニウムはその水溶液が酸性で、化学的酸性肥料に属する。施用後、りん酸とアンモニア態窒素が作物の養分として吸収され、残留成分がなく、土壌または養液を酸性化させることがない。したがって、生理的中性肥料に分類される。
2.用途
りん酸一アンモニウムは完全水溶性のもので、溶解性が高い。溶解後、りん酸イオンとアンモニウムイオンを放出して、作物に吸収される。速効性のりん酸と窒素を有する肥料である。ただし、値段が割高で、畑や水田の肥料として直接施用することがほとんどない。主な用途は養液栽培用肥料である。
3.施用後土壌中の挙動
りん酸一アンモニウムが水によく溶けて、放出したアンモニウムイオンは陽イオンで、土壌コロイドによく吸着されるので、土壌中の移動が少ない。同時に生成したりん酸イオンがアンモニウムイオンの存在により、土壌中の活性鉄イオンとアルミニウムイオンとの結合が抑制され、難溶性のりん酸鉄とりん酸アルミニウムを生成して沈殿することが遅くなる。
また、りん酸一アンモニウムが速効性肥料ではあるが、施用後の濃度障害が起こりにくく、種子の発芽や初期生長が阻害される恐れや肥料焼けが発生する可能性が割と少ない。
りん酸一アンモニウムの肥効発現は天候にほとんど影響されず、非常に早く、養液栽培肥料としては大体施用2日後に見られる。肥効の持続期間が不明である。
りん酸一アンモニウムは生理的中性肥料であるため、りん酸と窒素養分が作物に吸収された後、残留成分がほとんどない。長期施用しても土壌を酸性化する恐れがない。
4.施用上の注意事項
りん酸一アンモニウムは高価の肥料として、主に養液栽培肥料として使われている。施用には制限がほとんどないが、下記の事項に注意が必要である。
- 水溶性カルシウム肥料との混合に注意する
りん酸イオンがカルシウムイオンと反応して、水和性第二りん酸カルシウムを生成し、沈殿する恐れがある。養液栽培肥料に使う場合は、硝酸カルシウムとの混合を避けるか、混合後すぐ施用する必要がある。 - 高濃度の施用をしない
養液栽培に高濃度の過剰施用では、濃度障害で作物の水分吸収機能を阻害し、肥料焼けが発生する恐れがある。必ず処方通りに濃度と施用方法を守る。