肥料データベース
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EDTA系キレート微量元素
鉄、マンガン、銅などの微量元素は、植物体内における存在が微量でありながら、多くの生理作用に関与して、不足の場合は生育阻害など欠乏症状が出る。
慣行栽培では土壌にこれらの微量元素がある程度存在しているため、強酸性土壌またはアルカリ性土壌を除き、微量元素を施用しなくても植物の微量元素欠乏症状が出にくい。これに対して、養液栽培、特に無培地水耕栽培の場合には作物生育に必要な養分がすべて培養液から供給されるため、微量元素の添加が必須不可欠である。通常、培養液に鉄(Fe)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、ホウ素(B)の6元素を必ず含有していなければならないが、鉄、マンガン、ホウ素の3元素だけを培養液に添加し、極わずかの量で済む亜鉛、銅、モリブデンの3元素が原水からの供給に任せるところもある。
微量元素を含有する肥料は無機系と有機系(キレート系)に分けられる。無機系微量元素は大体硫酸塩などの無機金属塩類で、元素含有量が高く、値段も安いが、培養液に溶けてから元素がイオン化し、他の成分と反応して、難溶性の沈殿を生成してしまう可能性が高い。また、硫酸塩の硫酸イオン(SO42-)も他の肥料成分と反応して、難溶性の硫酸塩を生成して沈殿する恐れがある。一旦沈殿が発生すれば、培養液中の微量元素濃度が減少し、場合により微量元素不足となる。従って、無機系の硫酸塩を使う場合は、培養液とは別途に微量元素だけを溶かして、使用直前の希釈した培養液に添加するしかない。
このような現象を避けるため、養液栽培用微量元素には有機系のキレート金属化合物が推奨される。
肥料用キレート微量元素は基本的にEDTA 系の金属化合物を使う。EDTA はエチレンジアミン四酢酸の略称で、一種のアミン基を有する窒素有機物である。ほかのキレート系のものもあるが、価格と安定性に劣るため、ほとんど使用されていない。
EDTAキレート金属化合物とは、EDTA分子がキレート剤として金属イオンに電子を供与し、配合結合と呼ばれる形で形成された有機系の金属化合物である。EDTA分子は複数の配位座を持っているため、金属イオンがEDTAと結合して、一つの分子として存在する。金属元素がキレートされると、溶液中にイオンの状態ではなく、分子状態で存在するので、溶液中のほかのイオンと反応せず、難溶物を生成して沈殿してしまう現象が無くなる。
肥料用EDTA系キレート微量元素はEDTA-鉄、EDTA-マンガン、EDTA-亜鉛、EDTA-銅の4種類を指す。
1.成分と性質
- EDTA-鉄: EDTA-鉄(Ethylenediaminetetraacetic acid iron(III) sodium salt trihydrate、C10H12FeN2NaO8)はEDTAの鉄ナトリウム塩である。市販品は3水和物である。無臭無味の黄褐色結晶性粉末で、鉄の含有量13.0~13.5%、水によく溶け、溶解度約90g/100ml(20℃)、水溶液pH4~6である。
- EDTA-マンガン: EDTA-マンガン(Ethylenediaminetetraacetic acid disodium manganese salt、C10H12MnN2Na2O8)はEDTAのマンガンナトリウム塩である。市販品は3水和物と4水和物が多い。無臭無味の微紅色結晶性粉末で、マンガンの含有量11.5~12.4%、水によく溶け、溶解度約80g/100ml(20℃)、水溶液pH6~8である。ほかに無水物と2水和物もある。
- EDTA-亜鉛: EDTA-亜鉛(Ethylenediaminetetraacetate acid disodium zinc salt、C10H12ZnN2Na2O8)はEDTAの亜鉛ナトリウム塩である。市販品は3水和物と4水和物が多い。無臭無味の白色結晶性粉末で、亜鉛の含有量13.8~14.2%、水によく溶け、溶解度約100g/100ml(20℃)、水溶液pH6~8である。
- EDTA-銅: EDT-銅(Ethylenediaminetetraacetate acid disodium copper salt、C10H12CuN2Na2O8)はEDTAの銅ナトリウム塩である。市販品は4水和物で、無臭無味の青色結晶性粉末で、銅の含有量12.8~13.5%、水によく溶け、溶解度約120g/100ml(20℃)、水溶液pH7~9である。
2.用途
工業分野では、EDTAキレート金属化合物は主に染色助剤、繊維処理助剤、石鹸洗浄剤、化粧品添加剤、血液凝固防止剤、農薬安定剤、酵素の活性賦与剤、合成ゴムの重合剤、塩化ビニル樹脂の熱安定剤、重金属の定量分析などに使われている。
農業分野では上述の4種類EDTAキレート金属化合物は微量元素肥料として、鉄、マンガン、亜鉛と銅の供給源として使われている。主に養液栽培肥料に添加する。欠乏症状が発生した場合は葉面散布にも使われる。
EDTA系キレート微量元素は高価で、無機の硫酸塩化合物より数10倍も高い。しかし、培養液への添加量がppm単位でわずかな量で済むので、作物の微量元素欠乏症による減収や発生した沈殿によるタンクや配管への付着にかかるメンテナンス費用に比べ、無機系硫酸塩微量元素の使用よりむしろ経済的である。
化成肥料とBB配合肥料に添加することが全くない。その理由はやはり値段である。
3.養液栽培肥料または葉面散布肥料に配合した後の挙動
EDTA系キレート微量元素はキレート剤の分子が金属イオンに電子を供与して配合結合と呼ばれる形で形成された有機系金属化合物である。キレート剤の複数の配位座が金属イオンと結合して、分離しにくい一つの分子として存在する。キレートされている金属元素が溶液中にイオンの状態ではなく、分子状態で存在するので、化学反応性が非常低く、通常の環境ではほかのイオンと反応し、難溶物を生成して沈殿してしまうことがない。
培養液または葉面散布液中のEDTA系キレート微量元素はそのままの形で作物の根または葉に吸収される。吸収されたEDTA系キレート微量元素が作物体内必要な器官組織に転流し、微量元素を放出して、その肥料効果が発揮する。残ったEDTAは作物体内に分解され、窒素源としてアミノ酸とタンパク質の合成に使われる。
4.施用上の注意事項
EDTA系キレート微量元素は養液栽培肥料または葉面散布肥料に配合する場合に下記の注意事項がある。
- 配合する際のpHに注意する
EDTAキレート金属化合物は強アルカリ性の溶液中にキレート機能が妨害され、金属元素が遊離される。養液栽培肥料または葉面散布肥料を配合する際に、瞬時でも溶液のpHが9.5を超えたら、微量元素がイオンとして離脱し、ほかの肥料成分と反応し、難溶物を生成する可能性がある。 - 培養液の保管に日射と高温を避ける
EDTAキレート金属化合物は紫外線に弱く、容易に分解される。直射日光により少しずつ分解し、金属イオンを放出する。また、高温と水分の存在により、EDTAキレート金属化合物中の金属元素が次第に還元され、キレート安定度が低下し, 金属イオンが遊離される恐れがある。したがって、配合した肥料原液及び希釈した培養液は直射日光を避け、冷暗場所に保管すべきである。