肥料データベース
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熔りん
熔りん(熔成りん肥)はケイ酸塩非結晶質のりん酸系肥料である。含まれているりん酸がく溶性で、土壌中に固定されにくく、石灰、苦土、鉄、マンガン、亜鉛等の有用元素も豊富に含んでいるため、酸性土壌、砂質土壌、苦土欠乏土壌に適する。りん安等水溶性りん酸を有する高濃度りん酸肥料が主流となった今でも熔りんの人気が衰えていない。
熔りんは第2次世界大戦後に発展してきた肥料である。1939年ドイツは熔りん生産に関する特許権を取得して、試験的生産を開始したが、戦争の関係で工業化に至らなかった。1946年、アメリカは初めて熔りん工場を建設し、電炉法で生産を開始した。日本も1948年から電炉と平炉で熔りん生産を始めた。現在、コストの関係で、熔りんは主に高炉で生産する。国内メーカーは日之出化学、朝日工業と南九州化学の3社だけである。なお、最大の生産国は中国である。
1.成分と性質
熔りんはりん酸根(PO43-)を有するケイ酸塩非結晶質のりん酸系肥料である。結晶ではないため、明確な化学構造がないが、主成分はCa3(PO4)2とCa2SiO4である。ガラスのような光沢を有する暗緑色で、よく見かけるのは粒径0~2mmの砂状もので、粉品と粒状に造粒したものもある。無味無臭で、水に不溶で、弱酸、例えばpH2.1の2%クエン酸液には溶ける。大体17~20%のく溶性りん酸を含有するほか、く溶性苦土12%以上、アルカリ分(石灰)40%以上、少量の鉄、マンガン、亜鉛等をも含有する。pH8.0~8.5のアルカリ性を呈し、アルカリ性肥料に分類される。
熔りんを製造する際に、マンガン鉱石とホウ酸塩類を添加して作ったBM熔りんという製品がある。成分には少量のマンガンとホウ素も含まれているが、性質が通常の熔りんと変わらない。
2.用途
熔りんはそのりん酸がく溶性のもので、土壌に施用した後、水に全く溶けず、作物根から放出された根酸により分解され、りん酸イオンが遊離して根に吸収される。従って、速効性りん酸肥料ではなく、追肥に適さず、もっぱら基肥として使用される。熔りんは化学反応性が乏しく、ほかの土壌成分とほとんど反応せず、土壌のりん酸固定の影響を全く受けない。
また、りん酸以外に石灰、苦土、鉄、マンガン、亜鉛等の中量と微量元素が豊富に含まれ、アルカリ性肥料でもあり、土壌に中量と微量元素を補給するほか、土壌pH調整と改良材としても役立つ。
水溶性りん酸を有しないので、肥効の発現が遅い。その緩効性を有効に利用するには、速効性の水溶性りん酸を含有するりん安や過りん酸石灰などと混合して施用するのは有効である。なお、養分利用率を高めるには、施用後土とよく混合して、作物根系との接触を増やす必要がある。
3.施用後土壌中の挙動
熔りんは施用後、土壌溶液に溶けず、土壌ECと浸透圧を上昇させることがなく、濃度障害を起こす恐れがない。また、降雨や灌漑による養分流失もほとんどない。く溶性りん酸であるため、イオン化することがなく、土壌溶液中の鉄イオンやアルミニウムイオンと反応して難溶性りん酸化合物になる可能性がほとんどないので、長く土壌に存在する。
熔りんのりん酸はく溶性であるため、根から出る根酸のような弱い酸に溶けて、根に吸収される。従って、作物根に直接に接触されていないと、根に吸収されず、肥料効果が発現しない。ただし、りん鉱石粉と違って、弱酸に溶けやすいので、根酸分泌量の少ない作物にも吸収利用される。
施用後、く溶性りん酸が作物に吸収され、一部のカルシウムが土壌に残留される。長期施用しても土壌を酸性化させる恐れがない。逆に、カルシウムは土壌塩基として残され、土壌pHをアルカリ性に傾ける作用があり、土壌改良資材としての効用もある。
熔りんの肥効発現は非常に遅いが、肥効持続期間は相当長い。一回施用すれば、肥効が1年以上に継続する。
施用上の注意事項
熔りんは施用に当って、下記の注意事項を守る。
- 追肥にせず、基肥として使う
熔りんは水に溶けず、作物根に接触しないと吸収利用されないので、追肥としての効果が小さい。肥効持続期間が長く、土壌のりん酸固定もないので、基肥に適している。 - 全層施肥又は下層施肥にする
熔りんは作物根との接触を増加するため、全層施肥又は下層施肥にすべきである。全層施肥とは肥料を田んぼや畑に施用してから耕うんして作土層に全面混入するという施肥方法である。下層施肥とは作土層にやや深い穴または溝を掘り、肥料を施用してから薄く覆土してその上に播種や定植する方法である。 - 水溶性りん酸を有する肥料と混ぜて施用する
熔りんの肥効出現が遅く、作物の初期生長にりん酸養分の供給不足に陥る恐れがある。基肥にしても養分利用率を高めるためにりん安や過りん酸石灰を一部添加して、混ぜてから施用することが有効である。