肥料データベース
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重過りん酸石灰
重過りん酸石灰(重過石)は可溶性りん酸含有量30%、水溶性りん酸含有量28%以上のりん酸カルシウムを主成分とするりん酸系肥料である。生産工程が過りん酸石灰と似ているが、りん鉱石の分解に硫酸ではなく、りん酸を使う方法で製造する。
可溶性りん酸と水溶性りん酸が過りん酸石灰の2~2.5倍もあり、硫酸カルシウム(石膏)がほとんどなく、りん酸以外に硫黄、カルシウムやマグネシウムなど作物の生育に必要な養分も含んでいる。速効性の高濃度りん酸肥料として広く使用されていたが、りん安(DAPとMAP)の普及で、シェアが奪われ、使用量が大分減少した。
1.成分と性質
重過りん酸石灰は灰白色の粉末又は粒状物である。大体4~8%の遊離態りん酸が残されているため、酸味を帯び、水溶液はpH2~3の酸性を呈する。腐食性があり、鉄などの金属を錆びせる。吸湿性が強く、固結されやすい。固結防止策として市販される重過りん酸石灰は粒状品が多い。
重過りん酸石灰のりん酸カルシウムは主に第一りん酸カルシウムの一水塩(Ca(H2PO4)2・H2O)で、少量の第二りん酸カルシウム(CaHPO4)も含んでいる。純粋の第一りん酸カルシウムは白色無臭の粉末で、水溶性ではあるものの、その溶解度が低く、1.8g/100mlしかない。第二りん酸カルシウムは白色無臭の粉末で、水に難溶、酸性溶液やpH9.6のアルカリ性クエン酸アンモニウム溶液に溶ける。
ほかに少量の硫酸カルシウム(CaSO4・2H2O)とりん鉱石由来の鉄、マグネシウムなども含んでいる。
重過りん酸石灰大体30~44%の可溶性りん酸、そのうち28~40%の水溶性りん酸を含有する。概して、可溶性りん酸41%を超えたものはりん酸でりん鉱石を分解して作った製品で、可溶性りん酸41%未満のものはりん酸と硫酸の混酸でりん鉱石を分解して作った製品である。
遊離酸を多く含んでいるため、化学性では酸性肥料に分類されるが、りん酸カルシウムから離解したりん酸イオンとカルシウムイオンともに作物に吸収利用できるので、土壌に残留されるものが少なく、一応生理的中性肥料に属する。
2.用途
重過りん酸石灰はそのりん酸の80%以上が水溶性のもので、含有量も高く、土壌に施用した後、水に溶けて、りん酸イオンを放出して、作物に吸収される。従って、速効性りん酸肥料に属する。
また、重過りん酸石灰はりん酸以外に硫黄、石灰、苦土、鉄等の中量と微量元素が豊富に含まれ、中量と微量元素の補給にも役立つ。
高濃度の水溶性と可溶性りん酸を有するため、肥効の発現が速い。単肥としては基肥と追肥ともに適する。遊離酸が多く、水溶性りん酸濃度も高く、種子の発芽や苗の初期生育に悪影響を及ぼるため、種肥には適しない。
土壌のりん酸固定を受けやすく、単独施用では養分利用率が低いので、主に化成肥料の原料として使われる。単独施用の場合は粒状製品を使う。
3.施用後土壌中の挙動
重過りん酸石灰の土壌中の挙動が過りん酸石灰と似ている。施用後、第一りん酸カルシウムは土壌溶液に溶けて、りん酸イオンを放出する。りん酸カルシウムの溶解度が低いので、重過りん酸石灰粒子の周辺にりん酸イオンと未溶解の第一りん酸カルシウム、第二りん酸カルシウムの飽和土壌スラリーのクラスターを形成する。その後りん酸イオンが濃度勾配によりゆっくり周辺の土壌溶液へ拡散し、その酸性により土壌粘土鉱物から鉄とアルミニウム、カルシウム、マグネシウムなどが溶出され、イオン化する。りん酸イオンが土壌粘土鉱物から溶出した活性鉄イオンとアルミニウムイオンと結合し、難溶性のりん酸鉄とりん酸アルミニウムを生成して沈殿する。特に鉄とアルミニウムの多い強酸性の熱帯と亜熱帯の赤土やアルミニウムの多い日本の黒ぼく土ではりん酸の不溶化率が高い。一方、強アルカリ性土壌に於いて第一りん酸カルシウムがりん酸イオンを放出できず、逆に土壌中のカルシウムイオンと結合して、水和性第二りん酸カルシウム → 無水第二りん酸カルシウム → 第三りん酸カルシウムなどを経て、難溶性のりん灰石になる。従って、重過りん酸石灰は弱酸性~弱アルカリ性(土壌pH6.0~7.5)の土壌に施用するのは肥効が一番良く、強酸性土壌と強アルカリ性土壌では土壌りん酸固定の影響で肥効が著しく低下する。
一方、重過りん酸石灰に含まれているカルシウムは水溶性であり、放出されたカルシウムイオンは石灰と異なり、土壌pHを上昇させず、カルシウム分を補充する効果がある。
重過りん酸石灰は施用後、肥料効果が大体3~5日後に見られる。但し、土壌のりん酸固定の影響を強く受けるので、養分利用率が低く、対策を取らない場合は利用率が10~15%しかない。
4.施用上の注意事項
重過りん酸石灰は化成肥料の原料として使用されることが多いが、単独施用に当って、下記の注意事項を守る。
- 石灰、草木灰などアルカリ性肥料との混合を避ける
重過りん酸石灰はアルカリ性物質と混ぜると、第一りん酸カルシウムが第二りん酸カルシウムに変化して、水溶性りん酸が減少する恐れがある。他方、硫安、塩安、塩化加里、硫酸加里など中性肥料や生理的酸性肥料との混合施用が硫酸イオンと塩素イオンの存在によりりん酸の土壌固定が軽減される効果があるという。 - 酸性土壌には施用しない
遊離酸が多く、施用後は土壌を一時的に強く酸性化させる。また、酸性土壌のりん酸固定作用が強く、肥効を大きく低下させる恐れがある。 - 基肥の場合は側条深層施肥か下層施肥にする
りん酸の土壌固定を軽減するため、基肥として施用する場合は側条深層施肥か下層施肥にして、土壌との接触を減らすことが有効である。側条深層施肥とは肥料を作土の表層に出ないように田んぼの条や畑の畦に沿って作物株の近くに溝を掘って、肥料を溝に施用してから覆土する施肥方法である。下層施肥とは作土層にやや深い穴または溝を掘り、肥料を施用してから薄く覆土してその上に播種や定植する方法である。 - 追肥の場合は早く深く施用する
速効性のりん酸肥料ではあるが、水溶性が高くないので、肥効出現がやや遅い。養分利用率を高めるために早めに施用する。また、りん酸の土壌固定を減らすため側条深層施肥が有効である。 - 多量施用と長期施用を避ける
重過りん酸石灰はりん酸含有量が高く、遊離酸も多いため、1回多量の施用は土壌pHが急激に下がる恐れがある。また、多量施用では作物に吸収しきれないりん酸が土壌のりん酸固定により難溶化され、養分利用率が低くなり、無駄になる。連年長期施用でも同じ現象が起きる。 - 土壌酸性化に注意する
重過りん酸石灰が化学的酸性肥料であるため、長期大量施用する場合は土壌が次第に酸性に傾け、肥効が低下する。時々土壌pHを計測して、pH5.5以下になれば、消石灰や苦土石灰などアルカリ性資材を使い、適正な土壌pHを戻せるように調整する。