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苦土りん酸肥料

苦土りん酸肥料とはく溶性りん酸と水溶性りん酸を共に含有し、く溶性苦土も有するりん酸系肥料である。その特徴はく溶性と水溶性の双方の利点を有し、りん酸の肥料効果を長く持続させる。代表的な種類は苦土重焼燐で、ほかにダブリンやりんスターもある。

苦土重焼りんは本邦特有のりん酸系肥料で、小野田化学工業株式会社が開発したもので、現在も唯一のメーカーである。生産工程において、原料りん鉱石に混ざっているケイ石等の脈石が高温焼成により非晶質のけい酸(ゲル状シリカ)に変化して、可溶性けい酸としての肥料効果もある。従って、重焼燐はりん酸肥料としての役割のほか、土づくりの効果もある。

ダブリンやりんスターは高温焼成工程を省いて、過りん酸石灰又は重過りん酸石灰に蛇紋岩のような塩基性マグネシウムを含有する鉱物の粉を加え反応させ、又はりん酸液を苦土石灰等に反応させ、水溶性りん酸とく溶性りん酸を一緒に含有するものである。諸外国では熔りんと過りん酸石灰又は重過りん酸石灰に軽焼マグネシウムを加え、単純に混合する製品もある。このように作られた苦土りん酸肥料はく溶性りん酸と水溶性りん酸を有し、重焼りんと似ている肥料効果がある。これらの類似効果のある廉価のりん酸肥料が市場に出回っていることで、重焼りんの国内消費量がなかなか増えず、外国には全く普及されない原因となっている。

 

1.成分と性質

苦土りん酸肥料は単一の化合物ではなく、数種類のりん酸化合物の集合体である。く溶性りん酸は非結晶質のレナニット(CaNaPO4)と第三りん酸カルシウム(Ca3(PO4)2)、水溶性りん酸は第一りん酸カルシウム(Ca(H2PO4)2H2O)とりん酸ナトリウム(Na2HPO4である。りん酸化合物のほか、ゲル状無機ケイ酸(SiO2)、ケイ酸マグネシウム(Mg3Si2O5(OH)4)も多く含まれて、さらにりん酸マグネシウム(Mg(H2PO4)2)、酸化マグネシウム(MgO)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)などのマグネシウム化合物も含まれている。

苦土りん酸肥料は灰白色の粉または粒状品で、水溶性りん酸を有するため、水溶液はpH56の微酸性を呈する。吸湿性が低く、通常の取り扱いでは固結の恐れがない。

弊社の苦土りん酸肥料は銘柄によりく溶性りん酸2028%、そのうち水溶性りん酸812%程度を含む。ほかに可溶性ケイ酸710%、石灰2025%、く溶性苦土6%、鉄約2%を含有する。

苦土りん酸肥料は水溶性りん酸の存在により水溶液が微酸性を呈し、化学性では酸性肥料に分類されるが、水溶性りん酸が作物による吸収又は土壌によるりん酸固定で消失してから石灰分と苦土分が残り、土壌をアルカリ性に傾ける効果がある。従って、一応生理的アルカリ性肥料に属する。

2.用途

苦土りん酸肥料はその一部のりん酸が水溶性のもので、土壌に施用した後、水に溶けて、りん酸イオンを放出して、作物に吸収される。この点から見れば、速効性りん酸肥料に属する。しかし、大半のりん酸がく溶性のもので、土壌に施用した後、水に全く溶けず、作物根から放出された根酸により分解されてから根に吸収される。肥効期間が長い。従って、苦土りん酸肥料は速効性と緩効性を併せ持つりん酸肥料である。

りん酸以外に可溶性ケイ酸、石灰、苦土、鉄、マンガン等の中量と微量元素が豊富に含まれ、中量、微量元素とケイ酸の補給にも役立つ。

く溶性と水溶性のりん酸を含むので、作物の生育初期から後期までりん酸の肥効が持続できる。このような肥効特性を生かすためには基肥としての施用が基本である。ただし、追肥としての施用も支障が出ない。

副成分としてケイ酸とカルシウム、マグネシウムを含み、生理的アルカリ肥料に属するため、連用しても土壌を酸性化させない。土壌改良材としても使用される。

苦土りん酸肥料自体は化学的弱酸性であるので、硫安や塩安のようなアンモニア態窒素を含む肥料と配合しても、アルカリ反応によるアンモニアの揮散が起こらない利点がある。なお、硫酸を含まないので老朽化水田に適する。

 

3.施用後土壌中の挙動

施用後、水溶性の第一りん酸カルシウムは土壌溶液に溶けて、りん酸イオンを放出し、作物の吸収に供する。く溶性のレナニットと第三りん酸カルシウムは水に全く溶けず、作物根から放出された根酸により分解され、りん酸イオンが遊離して根に吸収される。苦土成分もほとんどく溶性のもので、作物根から放出された根酸により分解されてから吸収される。

水溶性りん酸から放出したりん酸イオンは土壌中の活性鉄とアルミニウムイオンと結合して難溶性りん酸化合物になるが、く溶性りん酸は土壌のりん酸固定の影響をほとんど受けず、長く土壌に存在する。但し、アルカリ性土壌に於いては、作物根酸の反応性が抑制され、く溶性りん酸の肥効が低下するので、アルカリ性土壌に施用するのは避けたほうが良い。

苦土りん酸肥料は施用後、肥料効果が大体35日後に見られる。肥効の持続期間が相当長い。1作に1回施用すれば、りん酸養分と苦土養分不足の問題が発生しない。 

 

4.施用上の注意事項

苦土りん酸肥料は単独施用またはBB配合肥料として施用する場合が多く、その施用に当って、下記の注意事項を守る。

  1. アルカリ性土壌に施用しない
    土壌pHが作物から分泌される根酸の影響範囲、化学反応性に大きく影響を及ぼす。アルカリ性土壌では一部根酸が中和され、残っている根酸の化学活性が弱く、く溶性りん酸の肥効が表れにくい。また、生理的アルカリ性肥料であるため、土壌pHをさらに押し上げる恐れがある。
  2. 基肥の場合は側条深層施肥か下層施肥にする
    りん酸の土壌固定を減らすとともに作物根系との接触を増やすため、基肥として施用する場合は側条深層施肥か下層施肥にする。側条深層施肥とは肥料を作土の表層に出ないように田んぼの条や畑の畦に沿って作物株の近くに溝を掘って、肥料を溝に施用してから覆土する施肥方法である。下層施肥とは作土にやや深い穴または溝を掘り、肥料を施用してから薄く覆土してその上に播種や定植する方法である。
  3. 追肥の場合は早く深く施用する
    速効性のりん酸肥料ではあるが、水溶性りん酸の含有量が高くなく、溶出速度もやや遅いので、肥効出現がやや遅い。養分利用率を高めるために早めに施用する。また、りん酸の土壌固定を減らすため側条深層施肥が有効である。
  4. 窒素系肥料や加里系肥料と一緒に施用する
    苦土りん酸肥料は硫安、塩安などアンモニア態窒素を有する肥料と混合しても問題が起きないので、窒素肥料や加里肥料などと配合して施用することは養分の相乗効果があり、肥効が一層高くなる。