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DAP(りん酸二安)

DAPDiammonium phosphate、りん酸二安)はりん酸とアンモニアを中和して合成したりん酸のアンモニア塩である。純度97%以上の高純度ものは重要な工業用化学薬品で、主に難燃剤や発酵醸造における酵母の栄養源として用いられる。またニコチンの強化剤としてタバコにも添加され、砂糖の精製、スズ、、亜鉛、真鍮等の融剤、羊毛へのアルカリ溶解コロイド色素の沈殿制御などにも用いられている。

一方、りん鉱石から抽出された粗りん酸をそのまま原料にして合成した純度の低いものは肥料用途である。市販されている肥料用DAPは可溶性りん酸(P2O53646%、そのうち水溶性りん酸3242%、アンモニア性窒素(N1618%を有する。高濃度のりん酸と窒素を含んでいるため、単独使用のほか、BB配合肥料の原料としても幅広く使われ、化学肥料として非常に重要な位置を占め、りん酸系化学肥料の中に生産量と消費量が一番多い。

肥料分類上、DAPはりん酸と窒素の二つの養分を含有しているため、化成肥料に分類されるが、りん酸含有量が窒素の2倍以上で、用途も主にりん酸養分の補充に使用するため、りん酸系肥料として取り扱う所が多い。

 

1.成分と性質

DAPの主成分はりん酸一水素アンモニウム((NH4)2HPO4)である。純粋のりん酸一水素アンモニウムは無色の単斜晶で、りん酸(P2O5)含有量53.8%、窒素(N)含有量21.2%、水によく溶け、溶解度が68.9g/100ml(20℃)、水溶液のpH8.0、弱アルカリ性を呈する。吸湿性が高く、固結しやすい。したがって、市販されている製品は基本的には造粒した粒状品である。熱安定性が悪く、80℃以上の高温に曝すと、ゆっくり分解して、アンモニアガスを放出して、りん酸一安(MAP)に変化する。

肥料用DAPは純度が低く、りん酸一水素アンモニウムのほか、第一りん酸カルシウム(Ca(H2PO4)2H2O)、りん酸マグネシウム(MgHPO4)、りん酸鉄(FePO42H2O)などのりん酸塩も多く混ざっている。これらのりん酸塩が水溶性のほか、可溶性のものもあるので、肥料用DAPはりん酸含有量が可溶性りん酸3646%、そのうち水溶性りん酸3242%、窒素1618%である。市場には6064%(可溶性りん酸4346%、窒素1718%)のDAPが一番多く出回っている。

DAPは原料粗りん酸に含まれている異物の種類と量により生産した製品が灰白~灰褐色を呈するが、販売上の理由で通常少量の顔料と鉱物油を用いて、粒子を着色させる。したがって、市販される製品は黒褐色、緑色、黄色に染めたものが多い。

DAPは多量の水溶性アンモニア態窒素があって、水溶液が弱アルカリ性を呈するが、施用後、りん酸とアンモニア態窒素がともに作物の養分として吸収されるので、土壌に残留されるものがほとんどなく、生理的中性肥料に分類される。長期使用しても、土壌を酸性化させる恐れが少ない。

 

2.用途

DAPは含んでいるりん酸の大部分が水溶性のもので、土壌に施用した後、水に溶けて、りん酸イオンを放出して、作物に吸収される。また、含んでいるアンモニア態窒素も完全水溶性のもので、速効性の化学肥料である。

DAPはりん酸とアンモニア性窒素のバランスがよく、単独では基肥と追肥ともに使用できる。特に基肥に適する。また、弱アルカリ性ではあるが、尿素、硫安、塩安などを混合してもアルカリ反応によるアンモニアの揮散が発生せず、BB配合肥料の原料として広く使われている。但し、高温に対する熱安定性が悪いので、化成肥料原料には不適である。

生理的中性肥料で、連用しても土壌を酸性化させない。硫酸を含まないので、老朽化水田に適する。

 

3.施用後土壌中の挙動

施用後、りん酸一水素アンモニウムは土壌溶液に溶けて、りん酸イオンとアンモニアイオンを放出し、作物の吸収に供する。

DAPはすべて粒状品であるため、施用後、DAP粒子の周辺にりん酸イオンとアンモニアイオンの飽和土壌溶液のクラスターを形成する。その後りん酸イオンとアンモニアイオンが濃度勾配によりゆっくり周辺の土壌溶液へ拡散するが、アンモニアイオンの存在で、土壌粘土鉱物から鉄とアルミニウム、カルシウム、マグネシウムなどの溶出が抑えられ、イオン化することが少なく、りん酸イオンが活性鉄イオンとアルミニウムイオンと結合し、難溶性のりん酸鉄とりん酸アルミニウムを生成して沈殿することも少ない。これは、DAP施用後の土壌りん酸固定が過りん酸石灰や重過りん酸石灰より軽い最大の要因である。

但し、強酸性の熱帯と亜熱帯の赤土やアルミニウムの多い日本の黒ぼく土では土壌中の活性鉄とアルミニウムイオンの量が多く、りん酸の不溶化率が高いので、強酸性土壌と黒ぼく土に施用する場合はりん酸固定による養分利用率の低下が避けられない。それでも過りん酸石灰や重過りん酸石灰より固定されたりん酸の量が抑えられる。したがって、酸性土壌にはほかの水溶性りん酸を有する肥料より肥効が高い。

一方、カルシウムイオンの多い強アルカリ性土壌に於いて、DAPが放出したりん酸イオンはすぐ土壌中のカルシウムイオンと結合して、水和性第二りん酸カルシウム → 無水第二りん酸カルシウム → 第三りん酸カルシウムなどを経て、難溶性のりん灰石になる可能性があり、肥効が大きく低下する。従って、DAPはアルカリ性土壌に施用するのは肥効が悪くなる。

DAPは施用後、肥料効果が大体35日後に見られる。肥効の持続期間が相当長い。生育期の短い作物では基肥だけ施用すれば、りん酸養分欠乏の問題が発生しない。生育期の長い作物では追肥の必要な場合がある。

4.施用上の注意事項

DAPは単独施用とBB配合肥料として施用する場合の注意事項が同じである。

  1. 強酸性や強アルカリ性土壌への施用を避ける
    強酸性土壌が活性鉄とアルミニウムイオンの量が多く、土壌のりん酸固定作用が強い。強アルカリ性土壌もカルシウムイオンが多く、りん酸の難溶化が進む。ともにDAPの肥効を大きく引き下げる。強酸性土壌や強アルカリ性土壌へ施用する前に土壌pHを調整する必要がある。
  2. アルカリ性肥料との混合施用を避ける
    DAPはアルカリ性肥料と混ぜると、化学反応が起き、アンモニア性窒素を放出してガス化し、揮散する恐れがある。但し、混合せず、施用前または施用後、別途でアルカリ性肥料を施用しては問題が起きない。
  3. 基肥の場合は全層施肥、側条深層施肥か下層施肥にする
    りん酸の土壌固定とアンモニアガスの揮散を減らすとともに作物根系との接触を増やすため、基肥として施用する場合は全層施肥、側条深層施肥か下層施肥にする。全層施肥とは肥料を農地に施用してから耕うんして作土層に全面混入するという施肥方法である。側条深層施肥とは肥料を作土の表層に出ないように田んぼの条や畑の畦に沿って作物株の近くに溝を掘って、肥料を溝に施用してから覆土する施肥方法である。下層施肥とは作土にやや深い穴または溝を掘り、肥料を施用してから薄く覆土してその上に播種や定植する方法である。
  4. 追肥の場合はやや深く施用する
    りん酸の土壌固定とアンモニアガスの揮散を減らすために側条深層施肥が有効である。