肥料データベース
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硫安
硫安は硫酸アンモニウムの略称で、窒素分20~21%を有し、作物が必要な中量元素の硫黄(S)も多く含んでいる。硫安はほとんどが鉄鋼工業や化学工業の副産物であるため、国内生産量が多く、値段が安く、本邦では使用量がもっとも多い代表的な窒素肥料である。
1.成分と性質
硫安の化学構造は (NH4)2SO4、純粋の硫安は窒素含有量21.2%、無色透明の結晶、水に良く溶け、溶解度74.4g/100mlである。水溶液は微量の遊離酸が存在し、微酸性を呈し、刺激性のある辛味を有する。肥料用硫安は工業の副産物であるため、ある程度の異物を含み、白色以外に黄色や灰色を呈するものもある。なお、本邦の肥料登録基準は硫安の窒素含有量20.5%以上が必要である。
副産物であるため、硫安には遊離酸や硫青酸化物、スルファミン酸、ひ素などの有害物質を含むことがある。但し、肥料登録基準をクリアすれば、これらの有害物質は作物に害を与えることがない。
2.用途
硫安に含まれている窒素はアンモニア態窒素である。溶解性が高いので、速効性の窒素肥料に属する。また、硫黄(S)も24%以上を含み、植物の硫黄養分供給源にもなる。硫安のアンモニア態窒素は土壌コロイドによく吸着され、流失が少ないので、基肥、追肥として畑や水田に使われている。また、単独施用のほか、小粒品と粉品は化成肥料の原料、粒径2~4mmの大粒品はBB配合肥料の原料として使われる。
3.施用後土壌中の挙動
硫安が溶解して放出したアンモニウムイオンは陽イオンで、土壌コロイドによく吸着されるので、土壌中の移動が少ない。大体土壌微生物の硝化作用により硝酸態窒素に転換されてから移動する。
アンモニア態窒素は、好気な環境に於いて亜硝酸生成菌によって亜硝酸イオンに酸化され、さらに硝酸生成菌によって硝酸イオンに酸化されていく。この過程を硝化作用という。硝化作用の速度は土壌種類、土壌通気性、土壌水分、土壌温度に制御される。概して、土壌有機物の少ない通気性の良い砂質土壌が速く、土壌温度が高いほど速い傾向がある。通気性の悪い重粘土質土壌は土壌水分が多く、嫌気的な環境になりやすく、アンモニウムイオンが長く土壌に存在する。
硫安の肥料効果は水稲など好アンモニア態窒素の作物では施用後2日、主に硝酸態窒素を吸収する畑作物などでは施用後3~6日が見られる。肥効持続期間は20~40日で、土壌温度が低いほど長くなる。
施用後、硫安に含まれるアンモニウムイオンが植物に吸収された後、硫酸根と呼ばれる硫酸イオン(SO42-)が土壌に残る。硫酸イオンの一部が土壌中のカルシウムイオンとマグネシウムイオンなどの塩基を引きずって流失し、土壌pHを下げ、土壌を酸性化させる要因の一つである。従って、硫安は生理的酸性肥料と分類される。
また、湛水の酸素欠乏環境に於いて、硫酸イオンが硫化水素に還元され、水稲根の生育と吸収機能に害を与え、「秋落ち」現象を引き起すことがある。これは老朽化水田に硫安の施用を好ましくない理由である。但し、老朽化水田の土壌改良と冬季乾田方式の普及などが進み、硫安の施用による「秋落ち」現象がほとんど見られず、水田に硫安を施用しないという束縛がなくなった。
4.施用上の注意事項
硫安が廉価の窒素肥料として幅広く使われている。一般的に基肥として使う場合は10アールの施用量が30~50kg、追肥として使う場合は10アールの施用量が20~35kgである。施用時に下記の事項を注意する。
- アルカリ性肥料と一緒に施用しない
硫安はアルカリ性肥料と混ぜると、化学反応が起き、アンモニア性窒素を放出してガス化し、アンモニアガスとなって揮散する恐れがある。但し、施用後、硫安が溶けてからアルカリ性肥料を施用しては問題が起きない。 - 表層施用を避け、全層か深層施肥にする
硫安が溶けて生成したアンモニア態窒素が揮発することがある。特にアルカリ性土壌では、表層施用ではアンモニアの揮発損失が高くなる。また、湛水している水田の土壌表層に酸化層と還元層があり、その接触面にアンモニア態窒素の硝化作用と硝酸態窒素の脱窒が同時に発生するので、一部の窒素が脱窒により損失する可能性がある。通常、全層か深さ10~15cmの耕作層の深層施用が薦められる。 - 土壌酸性化に注意する
硫安が生理的酸性肥料であるので、長期大量施用する場合は土壌が次第に酸性に傾ける。時々土壌pHを計測して、pH5.0以下になれば、消石灰や苦土石灰などアルカリ性資材を使い、適正な土壌pHを戻せるように調整する。