肥料データベース
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石灰窒素
石灰窒素はカルシウムとシアノアミンの化合物で、含んでいる窒素成分はシアナミド態窒素である。石灰窒素は水と接触して加水分解し、最初の加水分解段階では、遊離シアナミドと水酸化カルシウムを生成する。シアナミドが強い殺菌・殺虫力と除草力があり、土壌中の微生物を含む土壌生物と雑草を駆除する農薬効果がある。シアナミドはさらに加水分解して、尿素を生成し、窒素肥料としての効果が発揮する。従って、石灰窒素は唯一肥料と農薬効果を兼ねる多機能の化学肥料である。
但し、石灰窒素の生産に莫大な電気を消費するので、窒素量単位当たりの生産コストが窒素系肥料の中では一番高い。殺菌・殺虫と除草という農薬効果があるが、薬効のより高い農薬が揃える現代農業に於いて、石灰窒素の出番が大きく減った。現在、世界中に石灰窒素の生産が中国、日本、ドイツの3ヶ国に限られ、生産された石灰窒素もその大半はジシアンジアミドの原料に使われ、肥料として使用される国は日本、韓国と台湾など数か国しかない。
1.成分と性質
石灰窒素の主成分は、カルシウムとシアノアミンから合成したカルシウムシアナミド(CaCN2)である。
純粋のカルシウムシアナミドは無色の六方晶系結晶で、窒素含有量35%、水に溶けて、すぐ加水反応を起こし、シアナミド(H2CN2)と酸化カルシウム(CaO)に分解される。肥料用石灰窒素はカルシウムシアナミドを57~60%含み、窒素に換算すれば、約20~21%である。ほかに酸化カルシウム約20%、炭素12%、ケイ酸2%、微量の酸化鉄や酸化アルミニウムも含んでいる。無機炭素を含んでいるため、外観では暗黒灰色の粉又は粒状で、未反応のカーバイドが微量に残っているので、特有の臭気がある。
石灰窒素は石灰成分を多量含んでいるため、アルカリ性肥料に属する。施肥後、石灰窒素中のカルシウムシアナミドが土壌中の水分と反応してシアナミドを生成する。シアナミドは動植物に毒性があり、殺菌、殺虫、除草効果がある。人間に対しては、肝臓でのアルコール代謝に影響を与え、有害なアセトアルデヒドを体内に蓄積させ、アルコール分解力を低下させる。石灰窒素を吸い込むと少量の飲酒でも悪酔いを引き起こす。
2.用途
石灰窒素は窒素系肥料に属するが、その窒素の化学形態はシアナミド態窒素であるため、作物に直接に吸収されず、アンモニア態窒素か硝酸態窒素までに加水分解する必要がある。また、施用後、最初の加水分解段階に生成したシアナミドは毒性があり、接触した作物を殺す。7~10日くらいを経過してシアナミドがさらに尿素とアンモニア態窒素まで分解し、毒性が無くなってから作物を植えることになる。従って、石灰窒素の用途は基肥に限られる。
基肥として施用した石灰窒素は土と混和して土壌水分により加水分解し、生成したシアナミドの毒性により、線虫類や雑草、病原微生物を殺す。畑に於いては、連作障害の対策にもなる。水田に於いては、穴を掘って水稲の根に害を与えるザリガニと水稲の葉を食べるジャンボタニシなどを防除する効果がある。これは石灰窒素の農薬効果である。
ほかに稲わらや麦わら、トウモロコシ茎根など作物残渣の分解促進効果がある。石灰が多く含まれて、土壌酸性の矯正にも役立つ。
3.施用後土壌中の挙動
石灰窒素が施用した後、土の中で加水分解してシアナミドと水酸化カルシウムになる。シアナミドがさらに加水分解して尿素を生成する。石灰窒素からシアナミドへの加水分解速度は土壌水分、シアナミドから尿素への加水分解速度は土壌水分と土壌温度に制御される。概して土壌水分が多く、土壌温度が高いほど速くなる。夏の高温季節では1週間前後かかるが、冬の寒冷季節では2~3週間かかることもある。生成した尿素は土壌微生物によりさらにアンモニア化成、硝化作用を経て、アンモニア態窒素と硝酸態窒素に変化し、作物に吸収される。
シアナミドは土壌中の亜硝酸生成菌と硝酸生成菌の活性を強く抑制し、アンモニア態窒素を硝酸態窒素への硝化作用を遅らせる。従って、窒素肥料として一定の緩効性効果がある。
石灰窒素の肥効発現は土壌温度と土壌水分によって異なる。夏季では約7~10日間、春秋季では10~15日かかる。肥効持続期間は50~80日もあり、速効性肥料ではない。
4.施用上の注意事項
石灰窒素は動植物に毒性があり、人間に対しても害を与えることがある。従って、流通と施用に当って、下記の注意事項を守なければならない。
- 直接皮膚と粘膜に接触しない
酸化カルシウム(生石灰)を含んで、皮膚と粘膜に対して強い刺激性があり、場合によっては化学熱傷を起こす。散布はマスク、ゴーグルを着用し、肌を露出しない服装で行う。皮膚と粘膜に付着した場合は、十分な水で洗浄する。眼に入った場合は、すぐ十分に水洗した後、眼科医を受診する。 - 施用直後に飲酒しない
シアナミドが人間の肝臓でのアルコール代謝に影響を与え、有害なアセトアルデヒドの分解を遅らせ、体内に蓄積させる。散布後24時間以内に飲酒すると、急性アルコール中毒を引き起こす恐れがある。ちなみにシアナミドは処方医薬品として、禁酒薬として利用されている。 - ほかの肥料と混ぜて施用しない
石灰窒素はアルカリ性肥料で、アンモニア態窒素を含むほかの肥料と混ぜると、化学反応が起き、アンモニア性窒素を放出してガス化し、揮散する恐れがある。また、生石灰を多量含み、ほかの肥料を分解させる恐れがある。 - 施用後1~2週間以内に、播種や定植しない
石灰窒素が施用後生成したシアナミドが動植物に毒性があり、作物を殺傷する。7~14日くらいを経過して尿素とアンモニア態窒素まで分解し、毒性が無くなってから作物を植えることになる。 - 追肥としての施用を避ける
石灰窒素が施用後生成したシアナミドは毒性があり、既存の植物をすべて殺す効力がある。施用後から無毒化まで7~14日かかる。従って、その用途は基肥しかない。 - 施用後、すぐ土と混ぜて、混合する
石灰窒素がシアナミドを生成するには加水分解の必要であり、その分解速度は土壌中の水酸化鉄、腐植質などに促進される。石灰窒素が土壌と充分混合して、加水分解が順調に進み、シアナミドが一斉に生成し、土壌中の病害虫と雑草の防除効果を上げることができる。従って、施用後すぐ耕うんし、土にうまく混ぜ込むことが重要である。