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炭カル(炭酸カルシウム)

炭カルとは炭酸カルシウムの略称である。炭カルは石灰質肥料の一つで、石灰石を粉砕するだけで作ったものである。生石灰や消石灰のような危険性がなく、作物にカルシウムを供給するほか、土壌pHを矯正する作用もあり、廉価の石灰質肥料としてよく使われているものである。

 

1.成分と性質

炭カルの主成分が炭酸カルシウム(CaCO3)である。純粋の水酸化カルシウムは白色粉末で、カルシウム含有量40%(CaO換算56%)、水に不溶、溶解度は0.00015g/100ml25℃)しかなく、水溶液が中性か非常に弱アルカリ性を示す。吸湿性がなく、固結する恐れがない。ただし、強酸と強く反応し、二酸化炭素を放出し、その酸のカルシウム塩になる。

炭酸カルシウムは石灰岩大理石鍾乳石方解石霰石に多く含まれ、貝殻サンゴの骨格、鶏卵の殻を構成する主成分でもある。肥料用炭カルはほとんど石灰石を粉砕して得たものである。

炭カルは炭酸カルシウムのほか、石灰石に混ざっている炭酸マグネシウム、ケイ酸化合物、粘土鉱物などの異物が一部含まれている。市販の炭カルは灰白色~灰色で、CaO含有量が5055%、03%の苦土分(MgO)を含むものが多い。なお、本邦の肥料公定規格では石灰質肥料の品質評価に使うアルカリ分という指標は土壌酸性を中和する能力で、石灰と苦土のアルカリ総量を表わしたものである。炭カルのアルカリ分は炭カルのCaO含有量と同じものか、苦土分をプラスした数値である。その計算式は、

アルカリ分= CaO含有量(%) MgO含有量(%) × 1.39

炭カルは石灰石の粉砕程度により、粉品と粒状品に分けられている。最近では機械施肥に有利の粒状品が歓迎されている。粉品と粒状品は土壌pH調整の効果が同じである。

炭カルは不溶性ではあるが、水溶液が中性を呈するので、化学的中性肥料に属する。ただし、施用後、ゆっくり土壌pHをアルカリ性にする能力があり、生理的アルカリ性肥料に分類される。

 

2.用途

純度の高い炭酸カルシウムは工業上では錠剤の基材、チョーク窯業農薬の増量剤、飼料のカルシウム栄養剤などに用いられるほか、填料としてゴムプラスチック接着剤シーラント塗料インキなど多く工業分野で利用されている。研磨作用を利用し消しゴム歯磨剤にも配合される。

化粧品原料、食品添加物としての使用が認められている。食品添加物としてはカルシウム栄養強化を目的として乳飲料即席麺等に添加される他、食感改善を目的として菓子パン水産練り製品等にも添加される。医薬品としても、胃酸過多に対して制酸剤として使われている。

農業分野では炭カルの主な用途は酸性化した土壌の中和材として土壌pHの調整とカルシウム養分を供給する。水に不溶、中性であるため、作物の葉や根に直接に接触しても被害を及ぼす恐れが全くなく、非常に安全である。したがって、基肥と追肥とも適する。

反応性が乏しいので、施用後、ほかの化学肥料を施用しても差し支えない。また、過剰施用しても作物の生育への悪影響や拮抗作用によるほかの元素の吸収阻害がほとんど起きない。

緩効性でアルカリ性も弱いので、土壌中の中和反応は徐々に進み、特に炭カル粒状品は粒径が大きいほど、反応が穏やかで効き目が長く持続する。1回施用すれば、数年間土壌酸度を中和する効果が続く。

3.施用後土壌中の挙動

炭カルは施用後、徐々に土壌中の水素イオン(H+)と反応して、分解し、二酸化炭素と水を生成する。土壌中の水素イオンを減らすことにより、土壌酸性が中和される。これは炭カルの土壌pHを調整する原理である。炭カルの分解速度は土壌pHと土壌水分に大きく影響される。概して、土壌pHが低いほど、土壌水分が多いほど炭カルの分解が速くなる。

炭カルが施用後、土壌pHをゆっくり上昇させ、鉄とアルミニウムの溶出が減り、すでに土壌溶液中に存在している活性鉄と活性アルミニウムイオンが沈殿し、有害度が大きく減少する。また、土壌有機物の分解時に発生する有機酸も中和され、有機物の分解にも役立つ。ただし、炭カルの酸性土壌を中和する作用が非常に緩慢で、急な土壌酸度の矯正を要する場合には向かない。

炭カルが水素イオンと反応して、分解した後、カルシウムが土壌塩基として残され、土壌塩基飽和度と交換性塩基バランスの改善に役立つ。

炭カルは施用後、土壌中の反応が非常に緩慢で、副作用のない緩効性の土壌pH調整材である。

 

4.施用上の注意事項

炭カルは酸性土壌の中和作用が非常に緩慢であるため、その施用には下記の注意事項がある。

  1. 早めに施用する
    非常に緩効のある土壌pH調整材であるので、早めの施用に努める。緊急を要する土壌酸度の矯正には炭カルではなく、消石灰など速効性のある土壌pH調整材を使う。
  2. 均一に施用する
    局部土壌の未施用または過施用を防ぐため、基肥では全層施肥、追肥では全面表層施肥か側条表層施肥にする。全層施肥とは炭カルを田んぼや畑に施用してから耕うんして作土層に全面混入するという施肥方法である。全層施肥により土壌との混合がよく、土壌酸性の中和効果が高い。全面表層施肥と側条表層施肥は肥料を耕地の表面に撒いただけでの施肥方法であるが、次の耕作時に耕うんにより作土層に全面混入することになる。
  3. むやみに多量施用を避ける
    土壌診断を行って、土壌酸性を中和するための必要な適量を算出して施用する。非常に緩効性のある肥料で、1回施用では数年間土壌酸度矯正の効果が持続するので、毎年の施用が不要である。