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塩化加里

塩化加里は農業分野に於いて、塩化カリウム(KCl)を呼ぶ名称である。肥料のほか、化学工業上にカリウム化合物の製造に欠かせない重要な化学原料でもある。塩化加里は可溶性加里鉱石のシルビン(sylvine、加里岩塩)とカーナリット(carnallite、光鹵石)、または塩湖の鹹水から作られたもので、加里塩類の中に生産量と消費量が一番多い。2018年の世界生産量約6850万トン、そのうち、肥料としての消費量約5,900万トンで、残りは化学工業に供された。

農業分野に於いて、塩化加里は加里含有量が高く、水に溶けやすく、価格も安いため、汎用の加里肥料として広く使われている。生産量と消費量が一番多い加里肥料で、K2O換算では加里肥料の約90%を占めている。

 

1.成分と性質

塩化加里の主成分は塩化カリウム(KCl)である。純粋の塩化カリウムは無色無臭の立方体結晶で、カリウム含有量53%(加里(K2O)換算では63%)、塩素47%、水によく溶け、溶解度が34g/100ml(20℃)、水溶液はpH7.0の中性で、苦味を伴う塩味である。吸湿性がやや高く、固結するが、固結した塊が破壊しやすい。熱安定性が非常に高く、1000℃まで加熱しても融けるだけで、分解しない。常温下の化学反応性が低く、安定している。

肥料用塩化加里は塩化カリウムのほか、異物として少量の塩化ナトリウムと塩化マグネシウムが含まれている。異物の量により、加里(K2O)含有量57~62%で、60%のものが一番多い。粉品と粒状品があり、精製した粉品は白色の微細な結晶状粉末だが、精製せず、微量の酸化鉄を含んでいる場合は赤色を呈する。粒状品はシルビン原石の破砕品か圧片造粒法で作った不規則な形状の粒子である。

塩化加里はその水溶液が中性で、化学的中性肥料に属するが、施用後、加里が作物の養分として吸収され、塩素だけが土壌に残留して、土壌を酸性化させる。したがって、生理的酸性肥料に分類される。

2.用途

塩化加里は完全水溶性のもので、溶解性が高く、土壌に施用した後、水に溶けて、カリウムイオンを放出して、作物に吸収される。速効性肥料に属する。カリウムイオンが陽イオンで、土壌コロイドによく吸着され、流失が少ないので、基肥、追肥に適して、汎用性のある加里肥料である。但し、濃度と溶解性が高く、濃度障害が発生しやすいので、種肥と葉面散布には適しない。

また、塩化加里は化学的中性であるうえ、反応性が乏しく、尿素、硫安、塩安などを混合してもアルカリ反応によるアンモニアの揮散が発生しない。また、過りん酸石灰や重過りん酸石灰、りん安(MAPDAP)などを混合してもりん酸の難溶化が起こらず、化成肥料とBB配合肥料の原料として広く使われている。

塩化加里は高濃度の塩素を含んでいて、高濃度の塩素が土壌の理化学性質と作物の栄養生理に大きな影響を与え、ほかの加里肥料と違い、使用上に一定の制限がある。

塩素は植物の繊維化作用を促進し、病害抵抗性を高める働きがあると言われている。土壌中の塩素が不足する場合は、綿、麻類などの繊維作物は繊維が短くなり、引張り強度が落ちる。塩化加里の施用により植物繊維が長くなり、強靭さが増す。

一方、モモ、ブドウ、スイカなどの果物類に塩化加里を施用すると、果実の糖度が低くなるほか、薄い塩味を感じて、食感が悪くなる。これは、植物体内の塩素イオンが一定濃度を超えると、光合成で合成した炭水化物の果糖への転換と果実への蓄積を妨げるほか、果実に多量存在している塩素イオンが塩味のある食感を誘発する訳である。

ジャガイモやサツマイモのイモ類も多量の塩化加里を施用した場合は、地上部の生育に支障が見られないが、塊茎、塊根の収量が減り、でん粉含有量も低下する。その理由は体内の塩素が光合成で生成した炭水化物がでん粉への転換と塊茎、塊根への蓄積を阻害すると言われる。

塩素の悪影響が最も現れたのはタバコである。多量の塩化加里を施用したタバコは地上部の生育、特に葉の生育がよく、肉厚で外観に異常が見られないが、加工した紙巻タバコは火付きが悪く、吸う途中で火が消えやすい。これは、葉に蓄積されている多量の塩素が葉の燃焼性を劣化させるからである。

塩素の弊害を避けるため、塩化加里はコメ、小麦、綿や麻など耐塩素性植物や塩素嗜好性植物に使うべきである。特に水稲の栽培では田んぼの湛水期が長いので、塩化加里の溶解後に離解した塩素イオンが灌漑水により流されやすく、土壌に蓄積しないため、硫酸根の残る硫酸加里より塩化加里の肥効が高い。一方、灌漑設備のない乾燥地域では、塩素が土壌に残留しやすく、土壌の塩分集積を引き起こす恐れがあり、注意が必要である。

塩化加里は生理的酸性肥料で、長期連用する場合は土壌の酸性化を引き起こす可能性がある。ただし、塩素イオンは土壌コロイドには吸着せず、雨水や灌漑水で簡単に洗い流してしまうので、土壌に蓄積しにくく、乾燥地域を除き、塩化加里の土壌酸性化作用を無視することができる。

 

3.施用後土壌中の挙動

塩化加里が水に溶けてイオン化しやすい性質を有する。放出したカリウムイオンは陽イオンで、土壌コロイドによく吸着されるので、土壌中の移動がほとんどない。但し、同時に生成した塩素イオンが土壌に吸着しないので、容易に水と一緒に移動する。

塩化加里が溶解後に生成したカリウムイオンと塩素イオンは土壌中にほかの物質と結合して難溶性化合物を生成することがなく、施用後土壌ECと浸透圧を速く上昇させる。灌漑設備のない畑では塩素が土壌中に蓄積し、土壌水分ポテンシャルが高くなり、植物根系の養水分の吸収を阻害するいわゆる濃度障害を引き起すこともある。従って、畑に多量施用する場合は、塩化加里がもたらす濃度障害により、種子の発芽や初期生長が阻害される恐れがある。また、生育期の植株にも肥料焼けが発生する可能性がある。

塩化加里が速効性であるため、その肥効は施用後23日に現れる。肥効持続期間は長く、特に有機質の多い粘土質土壌では生育期の短い作物では基肥だけでも、加里養分の欠乏症状が発生しにくい。栽培期間の長い作物では追肥の必要な場合があるが、それでも追肥回数を削減することができる。

施用後、塩化加里に含まれるカリウム養分が植物に吸収された後、塩素だけが土壌に残る。塩素イオンが土壌中ほかの成分と反応して難溶性化合物を形成することがないが、カルシウムイオンとマグネシウムイオンなどの塩基を引きずって一緒に流失し、土壌を酸性化させるので、注意が必要である。なお、灌漑設備のない乾燥地域では、硫安に比べ、塩安の施用による土壌pHの低下がさらに速くて強い傾向がある。

 

4.施用上の注意事項

塩化加里は廉価の加里肥料として、加里肥料消費量の9割以上を占める。単独施用も化成肥料、BB配合肥料として施用する場合も注意事項が同じである。

  1. 基肥の場合は早めに施用する
    播種または移植の714日前に施用し、灌漑または降雨で余分の塩素を洗い流してから播種または移植を行う。
  2. 多量施用をしない
    塩化加里は施用後土壌ECと浸透圧を速く上昇させ、濃度障害による作物の肥料焼けが発生しやすいので、多量施用、特に追肥の多量施用を避ける。
  3. 種肥と葉面散布にしない
    土壌中の塩素濃度が高い場合は種子の発芽遅れや発芽率の低下、苗の生育不良や枯死が発生するもある。葉面散布も高濃度のカリウムと塩素が肥料焼けを引き起こす恐れがある。
  4. 塩素感受性の作物に施用しない
    タバコ、ジャガイモやサツマイモのイモ類、モモ、ブドウ、スイカなどの塩素感受性作物は、多量塩化加里を施用した場合は、収量か品質又は味が悪くなり、商品価値が下がるので、絶対避けるべきである。