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硫酸苦土

農業分野では硫酸マグネシウム(MgSO4nH2O)は硫酸苦土肥料と呼ばれる。硫酸マグネシウムはその結晶水の数により無水~7水和物があり、使われるのは無水硫酸マグネシウム、1水硫酸マグネシウムと7水硫酸マグネシウムの3種類である。結晶水26個の水和物は化学的に不安定のため、目に触れることがほとんどない。天然物としては硫酸塩を有する温泉から7水硫酸マグネシウムが硫酸ナトリウムとともに析出され、エプソム塩(エプソムソルト)とも呼ばれる。

植物体内に於いて、マグネシウムは光合成色素であるクロロフィルの中枢に含まれて、光エネルギーを化学エネルギーに変換する役割を担っているほか、多くの酵素の活性発揮に必要な補助因子でもあり、糖やりん酸の代謝に関与し、アミノ酸やタンパク質、炭水化物の合成に欠かせない存在である。

マグネシウムは植物に乾燥重量当たり0.20.4%含まれている。大体、植物中のマグネシウムの10~25%がクロロフィルに、約5%が細胞膜やリボソームのような細胞内の小器官の構成成分、70%以上が細胞内にイオンの形で存在している。

硫酸苦土は水溶性苦土肥料であるため、苦土欠乏症が出やすいジャガイモ、トマト、バラ等の作物に速効性の苦土供給に多用される。また、化成肥料の苦土成分の原料と養液栽培肥料の苦土養分の供給源にも使われている。速効性なので、持続性が悪く、養液栽培を除き、畑や水田の場合は、苦土石灰や軽焼マグ等のく溶性苦土肥料と一緒に施用することが大事である。

 

1.成分と性質

硫酸マグネシウムは結晶水のある水和物の形で存在することが多い。結晶水の数は結晶が析出する際の溶液温度に支配される。例えば、液温が48.3℃未満の場合は、7水和物(MgSO47H2O)として析出するが、液温が48.368℃の場合は、6水和物(MgSO46H2O)が析出する。液温が68℃を超えた場合は、析出したのは1水和物(MgSO4H2O)である。ただし、6水和物は多湿の環境に於いて、ゆっくり加水分解して7水和物となる。安定しているのは7水和物、1水和物と無水物である。農業分野では硫酸苦土は7水和物と1水和物を使う。

  1. 7水硫酸マグネシウム: 7水硫酸マグネシウムは無色の結晶で、水によく溶け、溶解度119.8g/100ml(20°C)、水溶液pH5.0~8.0、塩味のある強い苦味である。マグネシウム含有量9.8%(MgO換算で16.4%)、67.5℃で結晶性溶解、結晶水を放出して、1水和物になり、200℃以上に加熱すれば、結晶水を全部失い、無水物になる。
  2. 1水硫酸マグネシウム: 1水硫酸マグネシウムはキーゼル石と呼ばれ、白色の粉末で、水に溶けるが、溶解度5~10g/100ml(20°C)とやや低い、水溶液pH5.0~8.0、塩味のある強い苦味である。マグネシウム含有量17.6%(MgO換算で29.1%)、150℃で結晶が崩れ、結晶性溶解が発生し、結晶水をゆっくり放出する。200℃以上に加熱すれば、無水物になる。
  3. 無水硫酸マグネシウム: 無水硫酸マグネシウムは吸湿性のある白色結晶性粉末で、水によく溶け、溶解度25.2g/100ml(20°C)、溶解時に水分と反応して発熱する。水溶液pH5.0~8.0、塩味のある強い苦味である。マグネシウム含有量20.2%(MgO換算で33.5%)。無水物の溶液が再度蒸発乾燥すれば、結晶水を持つ水和物が析出される。

硫酸苦土の水溶液が中性を呈するので、化学的中性肥料に属するが、施用後、苦土が作物の養分として吸収され、硫酸イオン(硫酸根)だけが土壌に残留して、土壌を酸性化させる。したがって、生理的酸性肥料に分類される。

 

2.用途

工業分野では、硫酸マグネシウムは便秘症、胆石症、低マグネシウム血症、子癇、頻脈性不整脈の治療薬として使われる。日常生活に於いて、体を温める温浴効果があるので、入浴剤に特に多く配合されている。海水の天日干しで製造される塩に含まれ、独特の塩風味を醸す。また、豆腐の凝固剤として使うにがりにも少量含まれ、高級な味わいを出している。

農業分野では硫酸苦土は水溶性苦土肥料として使われている。なお、用途により7水和物と1水和物が使い分けられている。無水物がほとんど使用されていない。

7水和物は水に溶解しやすく、溶解度も高く、主に養液栽培肥料のマグネシウム源として使われている。また、単独施用では苦土欠乏症対策として作物への追肥か葉面散布に使う。7水和物は結晶性溶解温度が低く(67.5℃)、加熱により結晶水が放出されることもあり、化成肥料の原料には適さない。造粒ができず、BB配合肥料の原料にもならない。

1水和物は化学的中性であるうえ、溶解度がやや低いが、吸湿性が低く、安定性が高く、尿素、硫安、塩安などを混合してもアルカリ反応によるアンモニアの揮散が発生しない。また、過りん酸石灰や重過りん酸石灰、りん安(MAPDAP)などを混合してもりん酸の難溶化が起こらず、化成肥料の原料に適している。造粒しやすいので、粒状にしてBB配合肥料に使われている。単独施用が少ない。主に化成肥料かBB配合肥料の原料にする。

硫酸苦土は速効性の苦土肥料で、過剰施用する場合は自体の過剰障害は発生しないが、養分間の拮抗作用で、カリウム、カルシウムの吸収が抑制されることがある。

ただし、苦土は養分の吸収相乗効果で作物のりん酸吸収を促す作用があるので、りん酸の肥効を高めるためにも,適切な施用を勧める。

 

3.施用後土壌中の挙動

硫酸苦土が水に溶けてイオン化しやすい性質を有する。放出したマグネシウムイオンは陽イオンで、土壌コロイドによく吸着されるので、土壌中の移動が少ない。同時に生成した硫酸イオン(SO42)が土壌に残る。硫酸イオンの一部が土壌中のカルシウムイオンとマグネシウムイオンなどの塩基を引きずって流失し、土壌pHを下げ、土壌を酸性化させる要因の一つである。

硫酸苦土が溶解後に生成したマグネシウムイオンは土壌中にほかの物質と結合して難溶性化合物を生成することがないが、硫酸イオンがカルシウムと反応して、難溶性の硫酸カルシウム(石膏)を生成するので、施用後土壌ECと浸透圧を速く上昇こともなく、植物根系の養水分の吸収を阻害するいわゆる濃度障害を引き起すことが少ない。

硫酸苦土が速効性であるため、その肥効は施用後23日に現れる。肥効持続期間は割と長い。特に有機質の多い粘土質土壌では生育期の短い作物では基肥だけ施用すれば、苦土欠乏症状が発生しない。生育期の長い作物では追肥の必要な場合があるが、それでも追肥回数を削減することができる。

硫酸苦土は生理的酸性肥料である。苦土養分が吸収された後、硫酸イオンだけが土壌に残る。硫酸イオンが洗い流されにくく、土壌に蓄積しやすいため、pHを下げて、土壌を酸性に傾ける。また、硫酸イオンが石灰(カルシウムイオン)と結合して難溶性の硫酸カルシウム(石膏)を生成し、土壌を固くする恐れもある。従って、アルカリ性土壌を除き、長期施用した場合は、土壌酸性化と硬化を防ぐために硫酸苦土ではなく、熔燐や石灰、苦土石灰のようなく溶性苦土を施用したほうがよい。

 

4.施用上の注意事項

硫酸苦土は単独施用も化成肥料、BB配合肥料として施用する場合も注意事項が同じである。

  1. 土壌酸性化に注意する
    硫酸苦土は生理的酸性肥料であるため、長期多量施用する場合は土壌が次第に酸性に傾ける。時々土壌pHを計測して、pH5.0以下になれば、消石灰や苦土石灰などアルカリ性資材を使い、適正な土壌pHを戻せるように調整する。
  2.  7水和物と1水和物の適用対象に注意する
    7水和物は主に養液栽培、葉面散布に使う。1水和物は畑や水田の基肥か追肥として使う。
  3. むやみに多量施用を避ける
    過剰施用する場合は自体の過剰障害は発生しないが、養分間の拮抗作用で、作物のカリウム、カルシウム吸収が抑制されることがある。